そうして皆で打ち揃って向かうことになった国立国会図書館。 そこで彼等が知ることになった事実。 それは、父帝に投獄されて間もなく死刑宣告を受け獄死した皇太子アレクセイの処刑に連座させられた 主だった者たち――アレクセイの支持者、友人、側近たちの名。 記録に洩れがあるのか、処刑を免れたのか、連座者たちの中にレフ・ヴィノグラードフ公爵の名がないこと。 18世紀までは各種資料に散見されるヴィノグラードフ公爵家の名が、19世紀以降の資料には一切出てこないこと――。 そういう事柄だった。 「カシヤノフもスースロフも処刑されたのか……。大貴族中の大貴族だぞ」 その名を冠する者たちは、ヴィノグラードフ公爵とは旧知の仲だったのだろう。 親しい知人たちの刑死を知らされて、公爵は 真っ青になった。 「でも、レフ・ヴィノグラードフ公爵が処刑された記述のある資料は一つもないんです。翻訳の際に見落とされたという可能性もないではないですけど、その可能性は僅少でしょう。公爵は、そのカシヤノフさんやスースロフさんに並ぶ大貴族なんでしょう? 記録から洩れるようなことは考えられないですよね? なのに記録が残っていないんですから、公爵は連座は免れたのでは……」 「無理だ。カシヤノフやスースロフが処刑されたのでは――。私は彼等よりもっと皇太子に近いところにいた。友人で、血縁で――ウィーンへの亡命の際には、皇太子は私の旅券を使った。皇帝が私を処刑しなかったはずがない」 それを疑いようのない事実と確信し、公爵が、白くなるほど きつく両の拳を握りしめる。 ここで、『でも、公爵のお母様は処刑を免れることができたかもしれませんよ』と告げることは、彼への慰撫になるだろうか――? 閉架書庫からの貸出しを受けた数冊の古い文献――とはいえ、それは、18世紀当時のものでも、ロシアで出版されたものでもなく、アレクセイ皇太子の処刑から200年以上が経ってから、18世紀当時の文献を日本語に訳したものだったが――の前で、凍りついたように動かなくなってしまった公爵の広い肩を見詰め、瞬は迷った。 冷酷な親切心を発揮して、文献の内容を逆翻訳してやった氷河が、いっそ恨めしい。 瞬は迷い――だが、瞬は結局、慰撫の言葉を口にすることはできなかった。 「もし皇帝が私だけを処刑して、母の命を奪うことまではしなかったとしても、私を失った母が長く生き永らえることがあるとは思えん」 という、公爵の呻吟のせいで。 |