アテナ神殿を臨むことができるところまで来て、氷河はやっと、瞬に自分の足で立ち、歩くことを許してくれた。 そして、瞬もまた やっと、氷河に質問することができるようになったのである。 「ヒュプノスの言っていたことは本当だったの。氷河は、北の国から来たんじゃなかったの。氷河は本当にアテナの聖闘士なの。ここは――女神アテナのいる聖域……?」 「聖域から来たと 本当のことを言っていたら、俺は あの国に入ること自体が許されなかったろう。何といっても、アテナはハーデスの宿敵だ。俺がアテナの聖闘士だということも事実。俺はあの国に――」 ここまで来れば、たとえ追っ手がハーデス自身だったとしても、その力を恐れることはない。 瞬の質問に答えながら、瞬を伴い、アテナの結界に守られた聖域内に入った その瞬間、氷河は非常に重大な ある事実を思い出したようだった。 すなわち、彼がハーデスの建てたシェオルの国に潜り込んだ目的と、彼が彼の任務を果たせていないという重大な事実を。 「おまえを手に入れたことに浮かれて、すっかり忘れていた。確か、俺は、地上で最も清らかな魂の持ち主を 聖域に保護するために、あの国に行ったんだった……」 ここまで来て 突然うろたえ始めた氷河に、瞬は何と言えばいいのか わからなかったのである。 “地上で最も清らかな魂の持ち主” それは自分なのだと、瞬は今でも信じることができずにいたから。 その可能性があることを 氷河に知らせた方がいいのだろうか――と迷った瞬が、その答えに行き着く前に、 「まあ、いいか。おまえを手に入れることができたんだから」 という、開き直りともとれる氷河の声が降ってくる。 おかげで瞬は、ますますどうすればいいのか わからなくなってしまったのだった。 だが。 女神アテナの御座所である聖域。 その貴い場所に満ちている、不思議に心身が安らぐ温かい空気。 それがアテナの小宇宙というものだということを 得意顔の氷河に教えられた瞬は、『ここに来てよかった』と感じ、自分がここにいることは正しい――と信じることができたのである。 ひどく満ち足りた気持ちで、瞬は、この地上世界を守護する女神、この聖域と すべての聖闘士を統べる女神の前に立つことになった。 |