それが誰でも――到底 平和的とは言い難い手段で 自分たちの望みを叶えようとする者たちでも、人を傷付けることは避けたい。
まして、それが兄を慕い兄に従っている人で、彼の望みの正邪もわからない状況下ではなおさら。
そう考えて、瞬はブラックスワンに反撃せずにいただけだった。
瞬は、本気で彼と戦う気になれずにいただけだったのである。
もちろん、それだけではなく――彼を倒してしまうことで、手に入るかもしれない兄に関する情報を手に入れることができなくなるかもしれないという考えが、瞬の戦う気持ちを鈍らせていたところもあった。
そのため瞬は、ブラックスワンの攻撃に 反撃せずにいる場面を氷河に見られ、彼に助けられることになった。

氷河は、それで完全に誤解してしまったらしい。
アンドロメダ座の聖闘士は雑兵レベルにも戦えない聖闘士、誰かが守ってやらなければならない聖闘士なのだと、瞬は氷河に思われてしまったのだ。
氷河に そう思われてしまったことに、瞬が その時で気付かなかったことが、更に事態を悪化(?)させた。
その時 すぐに、せめて、自分は雑兵レベルくらいには戦えるのだと氷河に言っておけば、少なくとも氷河の誤解は誤解のまま、確信に至ることはなかったかもしれない。
その機会を逸してしまったせいで、瞬は、アテナの聖闘士たちの中で『“戦えない者”。ゆえに“守られるべき者”』というポジションを与えられてしまったのだった。






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