星矢に懸念を示されるまでもなく――瞬とて、いずれは 自分も戦わなければならない時がくるだろうとは思っていたのである。
その時まで、今の戦い方を続けていたい、氷河に守られていたい、その時までは氷河に“守るもの”を与えておいてあげたいと思うだけで。
これまで氷河と共に幾つもの戦いを戦ってきた。
その戦いの中で、瞬は気付いた――考えるようになっていた。
氷河が これまでの彼の人生の中で、力及ばず守り切れなかった幾人もの大切な人たち――母親や、共に修行を重ねていた仲間。
大切な人を守れなかったことによって生じた心の空洞を、氷河は、アンドロメダ座の聖闘士を守ることで埋めようとしているのではないだろうか。
瞬は そう考えるようになってきていたのである。
失ったものが多い分、氷河は、愛し愛せる人、信じ信じられる人を守りたいという欲求が人より強いのだ。
そして、その作業を実行し、成功することが、嬉しくてならないのだ。
幼い子供のように。

だから――今のままでいられる時まで 今のままでいようと、瞬は考えていた。
星矢の懸念はわかるのだが。
むしろ、星矢の懸念は 瞬の懸念でもあったのだが。


白銀聖闘士との戦いは それで済んだ――“今のまま”を通すことができた。
十二宮での戦いも、氷河の前で 瞬が為したことは、バトルではなく、双児宮で 異次元に飛ばされそうになった氷河をチェーンで救うこと、天秤宮で 氷河の再生のために 極限まで小宇宙を燃やしたことのみ。
双魚宮での戦いは氷河に見られずに済んだ。
おかげで瞬は、十二宮戦後も“今のまま”を維持できた。

アスガルドでは、時間の制約上、アテナの聖闘士たちは個別かつ同時に戦いを進めなければならなかった。
瞬をお姫様役にしての王子様ごっこを続けたい氷河は、その事態が かなり不満そうだったが、アテナの命と世界の命運がかかっているとなれば、それも致し方ない。
神闘士との戦いの中で 瞬と氷河が出会う時は、どういうわけか必ず瞬が劣勢でいる時だけだったせいもあり、アスガルド戦後も“今のまま”の継続は可能だった。

ポセイドンとの戦いも時間の制約があり、アテナの聖闘士たちは アスガルドでの戦い同様、各大洋の柱を守る海将軍たちに個々に当たらなければならなかった。
瞬は、氷河に、
「説得してわかってもらったんだ。南太平洋の柱を守る海将軍も 南大西洋の柱を守る海将軍も、幸い 僕が出会った人たちはみんな、話の通じる人たちだったの」
と言い逃れをし、何とか“今のまま”堅持の条件を崩さずに済んだ。

それらの戦いを経て、もしかしたら自分と氷河は いつまでも“今のまま”でいられるのではないかと、瞬はあらぬ夢を見るようになり始めていたのである。
アンドロメダ姫は いつまでも白鳥の騎士に守られる姫君でいられる。
氷河は 彼が守りたいと思う人を守ることのできる勝利者でいられる。
そうして“今のまま”は いつまでも続くのだ――。
瞬は そんな夢を見始め、見続けていられたのである。
アテナと聖域とアテナの聖闘士にとって最大の戦い――彼等が 今この時に命を授かったのは その戦いのためといってもいい、冥府の王率いる冥界軍との戦い――聖戦――が始まる その時まで。






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