聖域の陰謀






広大な敷地の中に、主たる12の宮と、幾つもの小宮、小舎。
聖域と呼ばれる、その地――その都市。
その町に集う様々な立場の数万の人々。
複雑で多岐に渡った巨大な組織。
聖域の長たる地位に就くことは、決して世界を支配することと同義なわけではない。
何といっても、その上には更に“神”ともいうべき存在がある。
だが、それでも、聖域の長となることは、少なくとも人間界の頂点に立つようなもの。
彼は、人類最高の叡智を手にする者として 世界に その名を轟かせ、絶大な名誉と栄光を得ることになる。

権力、名誉、他者からの尊敬、聖域という巨大な組織が生む桁違いの富。
何を最も欲しているにしても、その長たる地位に就くことを望む者は多かった。
誰もが その地位に就きたいと願っていた。
時には、聖域の外にいる有力者たちの中にも、その望みを抱く者はいた。
だが、基本的には、聖域の長は 主たる12の宮の責任者の中から選抜される。
聖域に、その長を決める時期が近付いていた。

その日、主たる12の宮を統べる本宮には、聖域の長に選ばれる資格を有する12人の男たちが一堂に会していた。
自らの持つ力を世界トップレベルと自負し、その力が人々の幸福と世界の発展に寄与することを疑わない12人の男たち。
そして、己れの持つ力が 他の11人の力を凌駕し優越すると信じている12人の男たち。
彼等の力の強大さは、何よりもまず自らの力こそが最高にして最善のものと信じる自信から生まれるものだったろう。
自薦はあっても他薦はあり得ない彼等の間では 投票という手段を用いても、ただ一人の長を選ぶことは不可能。
12人が 自らに1票を投じて終わるだけ。
議論を始めれば、12人が12人共、自らの力の有益を延々と述べ立て続けるだけ。
彼等には それがわかっていた。
人類の最高の叡智を自負する彼等は もちろん、貴重な時間を そんな無益な行為に費やすほど愚かではなかった。


「では、そういうことで」
「その方法で、この12の宮の――いや、聖域の支配者を決める。選考には、12分の1ずつの均衡を破るために、我々12名の他に、長に選ばれる資格を持たない2名の局外者を加える。どなたも それで異論はないですね」
「仕方あるまい。話し合いや投票といった ありきたりな方法では、いつまでも結論に至らない。対外的にも、組織運営の都合という点においても、聖域の長の地位を長く空位にしておくことはできない」
「うむ。我々の実力は伯仲しており、所詮 不完全な人間である我々は 人格的には完全ではあり得ない。得手とする分野が それぞれ異なるからには、同じステージで競い合うことも不可能だ」
「これが、最善ではないが、次善の策というところか」

聖域の未来を決する重要な会議は、厳粛な空気の中、粛々と進み、そして決議した。
次代の聖域の長となる資格を有する12人の男たちは、彼等が決定したことを この会議の結論として承認し、そして散会したのである。






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