「合コンで 女性陣には目もくれず、ひたすら男の子に粉をかけまくっている男を、俺は初めて見たぞ」
オトコノコにお誘いのメールを打ち終わるなり、気持ちが悪いほどの笑顔になった金髪男に、紫龍は目一杯 胡散臭そうな目を向けた。
昨日までとは人が違ってしまったように、嬉々として軟派な真似をしている人間嫌いの有名人。
他人の目や評価を 全く意に介さないところは 昨日までの彼と同じだったが、変わらないのは そのことのみ。
そもそも氷河のモバイル機器はメールも電話も受信専用、彼は誰かにメールを打つなどということをしない男だった。
瞬にメールを打ちたいから 方法を教えてくれと言われて、紫龍は自分の耳を疑うことになったのである。
そして、その言葉通りに、いそいそと男子高校生にメールを打つ氷河の姿を見て、紫龍は自分の目をも疑った。

「何か問題があるのか? あそこにいた女共と比べるのも失礼なくらい、瞬がいちばん可愛かった。人間のものとも思えないくらい澄んで綺麗な目をしていて、俺がへそ曲がりの変人だという噂は聞いているだろうに、素直で偏見がなくて、俺を親切で優しい男と信じてくれているんだ。他人の評価に惑わされず、自分の見聞きした事実だけを信じると言う行為は、実はかなり難しいことだぞ」
「その意見を否定はしないが、合コンでの収穫が 男子高校生のメアド一つとは、女にもてない証明をしているようなものだぞ」
「何を言うか。貴様等だってずっと、昨日の会合が 誰が何のために企んだ陰謀なのかを話し合っていただけだったろう。だいいち、あんな恐い女共相手に合コンなんて成立するか」
「む……」

そこを衝かれると、紫龍も反論のしようがなかったのである。
氷河が懸命に男子高校生を口説いている間、他の12名は、ろくに飲食もせず、答えが出るはずのない不毛なディスカッションを延々と続けていただけだったのだ。
そして、もちろん、答えに辿り着くことはできなかった。

「まあ、確かに、昨日の合コンで収穫を得たのはおまえだけだったろうな。自分のタイプの子を見付けて、連絡先を聞き出し、今 こうしてデートのお誘いメールを打っている。おまえだけが、合コンの本来の目的を果たしたわけだ」
「収穫を得たのは、俺だけじゃなく、瞬もだろう」
「おまえのような偏屈の変人と つながりができたことを 収穫と言っていいのならな。おまえに目をつけられるなんて、あの子は、負の遺産を負わされたようなものだろう」
「大事なのは、瞬がそう思っていないことだ」
「……」

氷河の言う通り、瞬は、そう思っていないようだった。
むしろ 瞬は、氷河を優しく親切な男と信じ、氷河と知り合えたことを光栄に思い、感激しているようでさえあった。
険しい顔をして 目的の知れない合コンの企画者の意図を話し合っている12人の学生たちの姿が目に入っていないように、氷河とアドレス交換をしていた男子高校生の 可憐としかいいようのない様子を思い出して、紫龍は深い嘆息を洩らすことになったのである。






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