俺の綺麗で可愛い宇宙人。
どうにかできないものかと考えあぐねた俺は、取材後 自宅に直帰せず、俺の記事を載せてくれてる月刊ゴンドワナの編集部があるビルに車を向けた。
そして、一応、俺の担当ということになっている編集者に相談してみたんだ。
歴史上の人物じゃない、無名の宇宙人本を出すことは可能だろうかと。
人間にしか見えないが、人間離れしている超美形の宇宙人。
1冊の本にできないなら、雑誌の第三特集くらいでもいいんだが――と、ごく控えめに。
担当の答えは、
「写真か動画の映像データがあって、その宇宙人が 常軌を逸してるレベルの美形なら、できなくもないだろう」
というものだった。

まあ、そんなところだろうな。
ほぼ予想通りの答えだったんで、俺は絶望はしなかった。
絶望しないで、失望しただけ。
そう。
せめて写真があったら。
宇宙人と思われても不思議じゃないくらいの美少女美男の写真。
真冬に咲いたスミレ、凍らないはずなのに凍結した川。
それらの写真さえあれば、スズキと元カウンター係のハシモト課長と元カウンター係のおばさん部長の証言を交えて、第三特集にするくらいは可能なのに、肝心の画像データがない。

やはり、この件は、一生 俺の胸の中にしまっておくしかないことなのか――。
失望し落胆して、俺は、編集室の隅にある おんぼろソファの上に どさりと身体を投げ出した。
「この俺が、わざわざ自分で取材にまで行ったのに、骨折り損の くたびれ儲けか……」
「出不精のおまえが取材? 明日は吹雪か」
言葉は揶揄めいていたが、俺のいつになく真面目な勤労振りに、奴は驚き、そして少し気の毒に思ってくれたようだった。
そして、ネタ提供のつもりなのか、俺に、ある宇宙人の話をしてくれた。

「人間離れっていうと、全然無名じゃないが、グラード財団の総帥が そうだと言われているぞ。20代後半のはずなのに10代にしか見えなくて、宇宙人か吸血鬼なんじゃないかと噂されている。その噂を気にしてるわけでもないんだろうが、滅多にメディアに顔を出さなくて――」
そう言いながら、担当が奴のノートPCで見せてくれた、宇宙人グラード財団総帥の姿。
「去年――と言っても、ほんの半月前なんだが、グラード・ピクチャーズ・エンターティメントが米国のアルクティクス・フィルムを傘下に収めた時の記念パーティ会場を出る時の映像だ。美人だろ」

17インチのノートPCのディスプレイに映っているグラード財団総帥は、担当の言う通り、かなりの美人だった。
20代後半と言われれば そうも見えるが、10代半ばと言われても、素直に『そうか』と信じることができる。
10代の頃から姿が変わっていないというのなら、宇宙人、吸血鬼の噂も立つだろうと思えるような姿をしていた。
だが、その映像を見て、俺は、グラード財団総帥の噂なんて どうでもよくなってしまったんだ。
マスコミ連中にカメラとマイクを向けられながら、黒い車に乗り込もうとしているグラード財団総帥。
彼女のすぐ 後ろに、俺の宇宙人の姿があったから。
その隣りに、嫌味なくらい顔立ちの整った金髪の男がいたから。

俺は声も出なかった。
息も止まった。
忘れもしない、綺麗で温かい俺の宇宙人。
その映像では濃紺のスーツを着ていたが、着衣が変わったくらいのことで、俺が あの人を見間違うはずがない。
俺の宇宙人、アンドロメダ。
彼女の姿は、12年前と全く変わっていなかった――。






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