氷河のクローンによる第二波攻撃は、それから1週間後、今度はパーティへの招待という形で始まった。 「彼の滞在しているホテルの大ホールを借り切って催すそうよ。彼のお父様の縁故でしょうけど、招待客は 日本国内の大学や 各企業の研究機関の関係者が多いようね。彼の お父様は政財界にも影響力があって、そちら方面の人間も ちらほらいるから、自分の研究の実用化・商品化を考えている人や、研究への援助を求めている研究者には有益なパーティかもしれないわ。私が いつも行くパーティとは少々 顔ぶれが違うわね。錚々たる顔ぶれといっていいでしょう」 「パーティに招待……って、沙織さんを? それとも、氷河をですか?」 ロモノーソフ氏の第二波攻撃の目的は、それだけのメンバーをそろえたパーティを催すことのできる彼の力を見せつけることか、それとも、オリジナルとコピーの住む世界の格の違いを示すことなのか。 できれば 沙織の出席だけで この攻撃をやり過ごすことはできないものかと 一縷の望みを抱いて尋ねた瞬の前に、沙織はパーティへの招待状が入っているらしい5通の封筒を広げてみせた。 「招待されているのは、私と氷河とあなたたち。五人全員よ」 二人の招待客の内の一人が出席を遠慮するのなら、『都合がつかなかった』の一言で片付けることができなくもないが、五人の内の四人までが出席しないのは、あからさまな出席拒否になり 体裁が悪い――と、沙織は 言葉にはせずに言っていた。 星矢が、ロモノーソフ氏の第二波攻撃の目的の嫌らしさが不快でならないという顔になる。 「俺たちもかよ? 沙織さんのボディガードとしてなら行かないこともないけど――大学関係者? そんな小難しそうで詰まんなさそうなパーティに俺たちが招待客として行ってどうなるんだよ」 星矢のそれは至極 尤もな意見だったが、紫龍は それとは違う考えを仲間たちに披露してきた。 「しかし、この招待を退けても、彼は次の攻撃を考えて それを行動に移すだけだろう。うまく対応しないと、不毛なイタチごっこが始まることになりかねない。受けて立つのも、一つの手だぞ」 「不毛なイタチごっこかー。それは確かに避けたいけど……」 立ち向かって勝負をつけるか、あくまでも無視するか。 この場合、この件に関しては、その決定を下す権利を有しているのは、氷河だけである。 氷河は どうしたいのか。どうすべきだと思っているのか――。 問いかけるような星矢の視線を受けた氷河の答えは、ごくあっさりしたものだった。 「奴の招待を受ける。おまえたちは――」 「僕も行くよ!」 氷河が何を言おうとしているのかを察した瞬が、機先を制する。 氷河が 仲間たちを――特にアンドロメダ座の聖闘士を――巻き込まないために、一人で敵地に乗り込もうとしていることが わからない瞬ではなかった。 氷河の その考えがわかるからこそ、瞬は、氷河を一人で彼のクローンの許に行かせるわけにはいかなかったのである。 それは、星矢と紫龍も同じだった。 「おまえ一人で行かせると、かえって騒ぎを大きくしかねないからなー」 「むしろ、そうならない方がおかしい」 氷河の仲間たちは、彼のトラブル体質に絶対の信頼を置いていた。 何より、彼等は、氷河の仲間として、氷河を一人 敵地に送り出し、自分たちは安全な後方待機という状況に慣れていなかったのだ――それでは かえって落ち着かない。 「では、今回は私たちは氷河のボディガード――いいえ、氷河の心と誇りを守るために、氷河のお供をすることにしましょう」 畏れ多くもアテナの その一言で、氷河と彼の仲間たちは 揃って敵地に乗り込むことになったのだった。 |