聖域を揺るがす その大事件は、1年の半分を日本で、残りの半分をギリシャ聖域で過ごしているアテナの聖闘士たちが 聖域に滞在している時に起きた。 『1年の半分を日本で、残りの半分をギリシャ聖域で』と言っても、彼等は半年おきに 日本とギリシャを行き来しているわけではない。 彼等の居場所は、 1月は、『お正月には、やっぱり お振袖を着て初詣でに行きたいわ』 2月は、『欧州で バレンタインデー限定チョコを売り出さないのはどうしてなのかしら』 3月は、『雛あられって、どうして日本にしかないの』 4月は、『お花見は、花より団子よね』 5月は、『柏餅には新茶!』 6月は、『青木屋さんで、あんず餅が出る頃ねえ』 7月は、『ウナギはやっぱり日本の蒲焼が最高!』 8月は、『花火大会に行って チョコバナナを食べるのって、日本の風物詩よね』 9月は、『中秋の名月ときたら、月見団子!』 10月は、『そういえば、紅葉狩りに つきものの食べ物って何なのかしら?』 11月は、『そろそろ、新米が出回り始める頃ね』 12月は、『冬至のカボチャの煮付けは、北海道産の“雪化粧”が最高よ』 といった調子の、女神アテナこと城戸沙織の予定に左右される。 つまり、日本で楽しみたいイベントがあるシーズンは日本で過ごし、その合間合間をギリシャ聖域で過ごすアテナの行動によって決定する。 欧州にいればいたで、アテナは、『パリコレを見に行かなくちゃ』、『シャモニーにスキーに行きたいわ』、『ヴェネツィア・カーニバルのシーズンね』と、精力的に あちこちに出掛けていく。 アテナの聖闘士の仕事は、何よりもまず 地上の平和を守ること、そして、女神アテナの身辺警護。 当然、アテナの聖闘士たちは アテナと共に、各地のイベントに出向くことになる。 アテナの聖闘士という仕事は、お祭り好きな人間には楽しいが、インドア派の人間には きつい仕事。 鳳凰座の青銅聖闘士が 聖域にも 日本の城戸邸にも 寄りつかないのは、彼が アテナの外出に付き合わされるのを嫌がっているからというのが、専らの噂だった。 彼は決してインドア派の人間ではなかったのだが。 ともあれ、それでも、アテナは、ひとたび地上が存亡の危機に瀕すれば 彼女の聖闘士たちを率いて雄々しく戦う地上世界の守護女神。 人類に対する彼女の愛情は疑うべくもない。 地上の平和と安寧を守る女神の重責のストレス解消と思えば、アテナの頻繁な遊興も許容範囲。 アテナの聖闘士たちは 常に彼女の傍らにあり、身を挺して彼女の身を守り続けた。 それもこれも、アテナの身を守ることが地上の平和を守ることと同義だから。 この地上世界にとって、それほどに彼女の存在が重要なものだからである。 そんなふうに、地上の平和と安寧の維持に なくてはならない女神アテナが 何者かに襲われ、瀕死の重体だというのだ。 これが大事件でなかったら、この地上に大事件などないと言っていいほどの、それは大事件だった。 |