こんこんと、死んだように眠り続けていたアテナが ついに目を覚ましたのは、それから5日後。 アテナ神殿の最奥にあるアテナの私室で、眠り続けていることに飽きてしまったかのように唐突に、アテナは目を覚ました。 「ふあ〜。久し振りに よく寝たわ。ポセイドンもハーデスも そうだったけど、神の本来の時計って、10年単位100年単位で時を刻んでいるのよ。私の身体は人間のそれだけど、神としての時間感覚が残っているせいか、いつも睡眠不足のような気がして――」 目覚めて、枕元に青白い頬をした瞬がいることに気付くと、アテナは笑いながら そう言った。 まるで1時間で目覚める予定だった昼寝が2時間になってしまったことを弁解するような軽い口調で。 「沙織さん……アテナ……!」 何はともあれ、アテナが目覚めてくれた――アテナは生き返った。 瞬は すぐさま星矢と紫龍に そのことを知らせ、星矢たちもまた すぐに黄金聖闘士たちにアテナ復活の報を伝えたのである。 「アテナ! お目覚めになられましたか!」 アテナ復活の知らせを受けた黄金聖闘士たちは、即座にアテナ神殿に集結した。 5日以上の長きに渡って こんこんと眠り続けていたアテナの寝台をぐるりと囲んで、黄金聖闘士たちがアテナの覚醒を慶する。 ある者は明るい笑顔で、ある者は安堵の表情で、また ある者はポーカーフェイス(この場合は、ババ抜きフェイスというべきか)を崩すことなく――彼等は、彼等の女神の復活を心から喜んでいた。 そうして、アテナの無事を確認できた彼等が次に取りかかることは当然、アテナに危害を加えた者の確定と懲罰の作業だった。 「アテナをこんな目に合わせたのは誰です」 サガが『キグナスなのか』と問わなかったのは、白鳥座の聖闘士の師であるカミュの立場を慮ってのことだったろう。 サガの一言で、それまで それぞれの表情でアテナの覚醒を喜んでいた黄金聖闘士たちが、一様に険しい顔つきになる。 アテナは、黄金聖闘士たちが そんな表情になることの訳を、まるで わかっていないようだった。 軽く眉根を寄せて、勢揃いしている黄金聖闘士たちの顔を見渡し、彼等の後ろに星矢、紫龍、瞬が立っていることを確かめ――最後に首をかしげて、アテナは言った。 「誰って、それは……。氷河がいないようね」 「やはりキグナスか!」 アテナの唇から その名が発せられた途端、黄金聖闘士たちの間に緊張が走る。 彼等の中には、早くも殺気立って小宇宙を燃やし始めた者もいた。 「キグナスは、今、牢に閉じ込めております」 いきり立ち 浮足立つ仲間たちを制するように落ち着いた声で サガがアテナに報告したのは、彼が 黄金聖闘士たちの中で最も冷静であったから――ではなかっただろう。 短気で 気の荒い黄金聖闘士たちによる氷河への私刑を危惧したからでもなく――むしろ、氷河を誅する役目を、先走った仲間に奪われないためだったに違いない。 サガの報告を聞いたアテナが、怪訝そうに首をかしげる。 「牢に閉じ込めて――って、どうして?」 「どうしてと申されましても――キグナスがアテナに危害を加えた反逆者だからです」 「違うわよ」 アテナの答えは、実にあっさりしたものだった。 あっさり、簡潔。 そして、明瞭。 アテナに そう問われて首をかしげることになったのは、今度は黄金聖闘士たちの方だった。 「違う? キグナスが アテナを凍気で凍りつかせ、弑しようとしたのではないのですか」 「冗談はやめてちょうだい。私が氷河ごときに後れを取るわけがないでしょう」 「そ……それはそうですが……」 アテナの機嫌を損ねるのは、黄金聖闘士たちには不本意の極み。 そして、冷静になって考えてみれば、氷河の攻撃によってアテナが死に瀕したと考えることは、確かにアテナに対する これ以上ない侮辱である。 自分たちがアテナを貶めるような浅慮軽挙に走っていたことに 今になって気付き、黄金聖闘士たちは揃って顔を青ざめさせた。 アテナは黄金聖闘士たちの軽挙への叱責より 気になること、したいことがあったらしく、その場で黄金聖闘士たちへの説教を始めたりはしなかったが。 「でも、私も、氷河には聞きたいことがあるの。氷河を連れていらっしゃい」 「しかし、キグナスをアテナの お側に呼ぶことは危険なのでは――」 「私には危険じゃないわ。瞬には どうか知らないけど」 「は?」 睡眠不足が解消されて気分がいいのか、長い眠りから目覚めたアテナは 妙に楽しそうだった。 |