21世紀のものの方が、本来の彼の時代のものより、コスメティックの安全性が高く、種類が豊富、質もいい。 そういう理由で、奴は しばしば21世紀の城戸邸に遊びにくるようになったのだ――と、兄一輝から、瞬は聞いていた。 兄から そう説明された時、その説明に、瞬は、21世紀の城戸邸の庭で初めて二百数十年も昔の時代に生きた蟹座の黄金聖闘士の姿を見た時よりも仰天したのである。 まさか兄の口から『コスメティック』などという言葉が発せられることがあろうとは――と。 驚天動地の その事実に比べたら、21世紀の日本の通貨を持たないデストールが化粧品代の代わりにすると言って、城戸邸の庭に窯を作り、どう見ても骨壺としか思えない陶器の入れものを焼き出したり、『桃は邪気を祓い、不老長寿を与える、縁起のいい実なのよ』と言って、勝手に城戸邸の庭に桃の木の苗を植えだしたことなど、驚くに値することではなかった。 そもそも、それが驚くほどのことだろうか。 陶器を焼くための窯を作っているデストールを見た鳳凰座の聖闘士が、 「オカマが窯を作るとは」 などという冗談を言うことに比べたら。 それでデストールに殴られても笑っている鳳凰座の聖闘士の姿を見ることに比べたら。 瞬を驚かせたのは常に兄一輝の言動で、デストールの非常識な振舞いではなかった。 だから瞬は、いつのまにか ごく自然に認め 受け入れてしまっていたのである。 二百数十年も昔の時代に生きていたはずの黄金聖闘士が 自由に21世紀の城戸邸に出入りしていること、二百数十年前に その命を終えたはずの男が 18世紀と21世紀を自由に行き来している奇妙な現実を。 |