出会いの時、氷河と瞬は8歳と6歳の子供だった。 一方は、故国を親を失い、地位も財もない みなしご。 一方は、母を失い、父親は各戦線を駆け回っていて側にいてやることができず、これからは たった一人の兄弟からも引き離されて孤独な日々に耐えることを強いられる子供。 すべてを奪われた子供と、彼から すべてを奪った男の息子とはいえ、そんな二人が憎しみ合うことは無理な話だった。 瞬は言わずもがな、氷河もまた。 瞬は、庭の花が強い風雨に打たれる様を見れば、その花の痛みを我がことのように感じる子で、そんな瞬を憎み嫌うことに、普通の人間は罪悪感を覚える。 そして、その点に関しては、氷河は至って“普通の人間”だったのだ。 将軍が彼の 跡取り息子を伴って任地に赴いた その日から、氷河と瞬は毎日を共に過ごすようになった。 その時から、二人は兄弟のような親友同士になった。 氷河が なぜ たった一人で、言ってみれば赤の他人の城で暮らすことになったのか。 瞬の父も氷河も、その件に関しては瞬に何も言わなかったのだが、人の口に戸は立てられない。 その事情は やがて瞬の知るところとなり、それは、氷河に向かう瞬の心を 一層優しく温かいものにすることになった。 そんな瞬に慕われ愛されて、氷河は――“普通の人間”である氷河は――その心中に憎しみを育むことはできなかったのである。 同じように優しく温かい心を瞬に返すこと。 それが氷河にできる、ただ一つのことだった。 故国を滅ぼされ、近親を失い――つまりは、一般的に幸福と呼ばれるものを すべて他人に奪われた氷河が、憎悪や卑屈、反抗心や復讐心に囚われず、優しさや愛情を知る人間になることができたのは、瞬のおかげ。 家族と離れて日々を過ごすことになった瞬が、孤独に打ちのめされることなく、明るく素直な子供であり続けることができたのは、氷河のおかげだった。 すべてが満たされているわけではない。 二人の胸の内に どうしても埋めることのできない空虚は確かに存在した。 それでも 二人が幸福な人間でいることができたのは、二人が二人だったから。 愛と優しさ、思い遣りのある日々――二人は、二人だったから 幸福だったのである。 |