そうして向かった黒海沿岸、アマゾン族の国。 アマゾン族の女戦士たちは、氷河と一輝が 並の男ではないことを即座に見抜き、二人を歓待してくれた――少なくとも、問答無用で追い返したり、武器を手にして挑んでくるようなことはしなかった。 「乳無しの噂は、やはりデマだったようだな」 アマゾン族の国――それは、人口20万のアテナイの国に比べれば、村レベルの集落だったが――で見掛ける女たちは、誰もがアテナイの女たちと大して変わらない衣服を身に着けていた。 女王の城に入ると、鉄製の胸当てや膝当てを着けている者も相当数いたが、彼女等は女王と女王の城の守護に当たっている者たちで、それ以外の女たちは普通に女の衣装を身にまとっている。 そして、彼女等は、確かに上から下まで 女性特有の曲線を有した姿をしていた。 アマゾン族は、アテナイほど洗練されてはいないが(そもそも、アテナイの町は装飾過多の気味がある)、立派に街と呼べる街を作り、女王の城も、豪華ではないが 女性らしい繊細華麗さのある城だった。 アテナイの200分の1という人口を考えれば、驚嘆に値する石造りの壮麗な城。 それは時間をかけて築いたのか、それとも どこからか男たちを さらってきて役夫として働かせて築いたのか。 アマゾン族の女王の城は、そのあたりの事情を聞いてみたいと アテナの聖闘士たちに思わせるほどに“立派”としか言いようのない城だった。 それは 決して、村の集会所レベルの建物ではない。 その城で、さすがの貫禄を示すアマゾン族の女王との挨拶だけの謁見後、氷河と一輝に それぞれに与えられた部屋も、見事なまでに清潔で機能的な気持ちのいい部屋だったのである。 機能的と言えるだろう。 城の中庭を見渡せる2階にあるその部屋は、扉は鉄、露台や窓には鉄格子、これ以上はないほどに完璧な監獄だったのだから。 「これで、俺たちを閉じ込めたつもりか。こんなもの、一瞬で破壊できる」 しかも、二人の部屋は隣り同士。 窓や露台に設えられている鉄格子のせいで 相手の顔を見ることはできないが、普通に会話もできる――今後の対応を話し合うこともできる――家具付きの快適な牢である。 そこには、寝台や寝具、食事をとるための卓や椅子、荷物を納めるための棚のみならず、アテナイの貴族の家にさえ稀な水道の設備までが備わっていた。 「アテナイの馬鹿共が囚われているのも ここと似たり寄ったりの部屋なら、身代金の交渉などしなくても、男たちを解放できそうだな。捕虜がどこに捕われているのかさえ わかれば」 氷河の その見解には、一輝も同意見のようだった。 もっとも、 「それが どこなのかわからん」 という、あまりにも根本的な問題はあったのだが。 更に、もう一つの問題。 それは、 「その場所、アマゾン族の女を たらし込んで聞き出すか。ここからなら、中庭に出てきた女たちに声をかけ、友好関係を築くことも容易にできる」 「そんなことができるか。やるなら、貴様がやれ」 問題解決は早ければ早いほどいい この状況下、目的が正しければ手段は選んでいられないと考える白鳥座の聖闘士と、どんな状況にあっても 公明正大でない手段は採りたくないと考える鳳凰座の聖闘士の不調和――という問題だった。 無責任ともとれる一輝の頑迷に、氷河は嘆息してしまったのである。 「硬いな。そんな余裕をぶっこいていられる状況じゃないだろう。あれをちょん切られるかもしれないと戦々恐々しているアテナイの男たちを救うのは早い方がいい。実際に ちょん切られる前に精神的に使いものにならなくなったら どうするんだ」 「ただの自業自得だろう」 「ん?」 言われてみれば、その通りである。 もともと馬鹿な男たちの救出など、氷河には――氷河にも――不本意極まりない任務だったのだ。 一輝の鋭い指摘を受けて、氷河は、即座に得心したのである。 馬鹿な男共のために、自分の品格を落とすことはない――と。 気持ちよく得心できた氷河は、本当にそれでいいのだろうかと考え直すこともしなかった。 |