さすがに この状況はまずいと、二人が思い始めたのは、彼等がアマゾン族の国にやってきて半月が経った頃。
エスメラルダが姿を現わしてくれないだろうかと期待して、二人が ぼんやりと露台から中庭を眺めていた時だった。

「以前は頻繁にアテナイに送っていた使者を、最近 女王は全く送っていないようだけど、アテナイとの交渉は決裂してしまったのかしら」
「逆に話が まとまったのかもしれないわよ」
「やっぱり、野蛮な男は オトナシクさせるしかないかしらねぇ」
そんなことを話しながら、アマゾン族の女戦士たちが楽しそうに笑い声を中庭に響かせているのを聞いた時、鳳凰座の聖闘士と白鳥座の聖闘士は 久し振りに 自分たちに課せられた任務を思い出すことになったのである。

どんなことになっても自業自得のアテナイの馬鹿共のことは ともかく、アテナの聖闘士が 自分たちに課せられた任務を放り出して 恋の鞘当てに励んでいた事実を、もしアテナが知ったなら、彼女はどんな顔をするか――。
顔は ともかく、何をするか。
最悪、聖闘士の資格剥奪、神の命令を ないがしろにした罰で、それこそ あれをちょん切るくらいのことは、彼女は平気でやりかねない。
今は、エスメラルダの可愛らしさや どっちつかずの態度に一喜一憂している場合ではないのだと、二人は死ぬほど慌てることになったのである。

死ぬほど慌てて、アテナイの馬鹿男救出のための行動を開始することなく、
「いつまでも こうしていても埒が明かない。そろそろ けりをつけようじゃないか。賭けをしよう。今日の夕食を運んできた時、エスメラルダに一緒に逃げてくれと言う。それでエスメラルダが 俺と貴様のどちらと逃げることを選ぶか。それが俺たちの運命の分かれ道というわけだ」
「よかろう。こんなところで 大人しくしているのは、俺も いい加減、うんざりしていたんだ」
という話になるあたり、二人は つくづく、どこまでも、恋する男たちだった。






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