全校生徒に公認されたとはいえ、そして、見た目に全く違和感がないとはいえ、(一応)男同士のカップルである。
驚く者、呆れる者、眉をひそめる者、やっかむ者、悔しがる者――は、校内に いくらでもいたはずだった。
というより、グラード学園高校の生徒全員が、そのいずれかに該当していただろう。
だが、彼等は誰一人として――教師でさえ――氷河や瞬に対して 苦言や諫言、非難や忠告の類を口にすることはしなかった。

理由は明白。そして、単純。
彼等は、表情には出さずに浮かれている氷河が恐かったのである。
ただでさえ無愛想で、長い付き合いの者たち以外にはクールな男と誤解され 遠巻きにされている氷河に物申す度胸のある者は、グラード学園高校には ただの一人もいなかった。
もっとも、もし氷河に意見を具申する度胸のある者が校内にいたとしても、そんなものは氷河は完璧に無視してのけただろうが。
かくして、氷河と瞬のお付き合いは誰にも邪魔されることなく、順風満帆。
氷河は我が世の春を謳歌することになったのである。


ただ、すべてのお膳立てを整えた星矢だけは、そんな氷河を横目に浮かぬ顔をしていた。
というより、腑に落ちない顔をしていた。
サッカー部の存続自体は、これからの新入部員獲得数によるので まだ確定したとはいえないが、男子生徒のみによる人気投票の件は教師にも女子にも知られずに済み、人権侵害、男女差別、セクシャルハラスメント等によるサッカー部即時廃部の事態を免れることもできたというのに、なぜか。






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