「すまん、好きでもない相手と いやいや付き合ってもらって。俺は これ以上 おまえを騙したくない。俺たちの関係は、今日限りで解消しよう。すまなかった」
意を決して、氷河が瞬に偽りの恋のゲームの終結を宣言したのは、氷河と瞬が校内公認カップルになって1ヶ月後。
氷河は3学年、瞬は2学年に進級した春、グラード学園高校の20XX年入学式が催された日の午後だった。
それ以上のことは何も――『本当は ゲームではなく本心から、俺はおまえが好きなんだ』などという言い訳がましいことは特に――言いたくなかった氷河が、それだけ言って踵を返す。

瞬は一瞬 何を言われたのか わからないというような目をして――そして、すぐに氷河を追いかけてきた。
瞬の許から立ち去ろうとしていた氷河の前に 回り込み、氷河の顔を見上げ、切ない目をして、氷河には思いがけないことを、瞬が 偽りの恋人に問うてくる。
「氷河、急にどうしたの。僕が いつ、どうして、好きでもない人と いやいや付き合ってたっていうの……」
「いつと言われて……最初から そうだったろう。おまえは、星矢に頼まれて、ゲームで 仕方なく俺と付き合うことを承諾したんだろう」
「僕、星矢に そんなこと頼まれてないよ。何も頼まれていない」
「頼まれていない? それは……それはどういうことだ」
「そんなこと……。僕こそ、どうして氷河が そんな誤解をしてるのか、知りたいよ!」
そう言ってから、瞬が心細げに眉根を寄せ、
「誤解……だよね?」
と、すがるように訴えてくる。

だが、氷河には、否とも応とも答えることができなかったのである。
誤解――これは誤解なのだろうか。
誤解なのだとしたら、誰が、何を、どういうふうに誤解しているのか。
その点が、氷河には まるでわかっていなかったから。






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