瞬が 側杖を食うことがないように、何らかの手を打つ必要がある――とはいえ、氷河にできる対応は、余計な小細工はせず 事実を三人に伝え、彼女等に引き下がってもらうことだけだった。 それが最も 手っ取り早く、誠意ある対応でもある。 何といっても、事実以上に強いものはない。 だから氷河は 彼女等に告げたのである。 「俺には心に決めた人がいるんだ」 と、正面から正直かつ率直かつ端的に。 が、彼の婚約者たちの反応は、氷河の予想と期待を大きく裏切るものだった。 彼女等は、その事実を認め諦めるどころか、逆に対抗心を燃やし始めてくれたのだ。 「そう。私たちの他に 四人目の婚約者がいるというわけね」 「三人も四人も同じことよ。こうなったら、正々堂々と勝負しましょう。あなたの妻に ふさわしいのは誰かを決める恋の戦いを」 「……貴様等は何を言っているんだ。俺の話を聞いていなかったのか? 俺の心は決まっているんだから、勝負などする必要はない。だいいち、勝負をするも何も、どうやって勝負なんかできるというんだ。これはゲームやスポーツとは まるで訳が違う次元の問題だろう!」 挑戦的としか言いようのない絵梨衣の言葉に、氷河は大いに慌てることになったのである。 瞬を交えての四人での勝負など、それこそ 氷河が最も避けたい事態だった。 そんな氷河の狼狽に気付いているのかいないのか、フレアが恋の勝負の種目を提示してくる。 「それは、まあ……与謝野鉄幹も歌っているでしょう。『妻を娶らば、才長けて、見目麗しく、情けあり』。妻の座を巡っての勝負の種目は、学業、美貌、優しさ――というところかしらね」 「学業、美貌、優しさ? それが競技種目だというのなら、全種目、瞬の圧勝だ」 つい 得意げに そう言ってしまってから、己れの迂闊な発言に、氷河は 臍を噛むことになったのである。 瞬を巻き込むことだけは避けたかったのに、自分から その名を彼女等に知らせてどうするのだと。 「瞬? それがあなたの四人目の婚約者の名前なの?」 が、後悔 先に立たず。 迂闊をしでかしてから、自身の迂闊に気付いても、すべては 後の祭りだった。 「わかったわ。では、瞬さんとやらを交えて、正々堂々と勝負しましょう」 「瞬を巻き込むのは やめてくれっ!」 氷河は 思わず悲鳴をあげてしまったのだが、彼女等は 彼女等の婚約者の訴えに 耳を貸す気もないようだった。 |