「駄目だ。あいつ等の目的は、俺を手に入れることじゃなく、俺に復讐することなんだ。でなければ、単に 自分たちの置かれた状況を面白がっているだけだ!」
「面倒事は極力避けるのが身上の おまえにしては、馬鹿な やり方をしたものだな」
「あんな気の強そうな女共に正面から ぶつかってったら、対抗心 煽るだけに決まってるだろ! おまえ、ばっかじゃねーの」
己れのしでかした不始末に頭を抱え込んでいる氷河に、彼の幼馴染みたちは容赦のない追い打ちをかけた。
氷河が、改めて指摘してもらわなくても自分の馬鹿さ加減は わかっているというように、ぎりぎりと歯噛みをする。

「仕方がないだろう! こんなことになった そもそもの原因は、俺が彼女たちをいじめたことにあるんだ。正直に事実を告げるのが、俺なりの誠意だろうと思ったんだ!」
「誠意ねー。で、誠意を示すついでに、瞬の名前も示しちまった、と」
「言うなっ。俺が馬鹿なことは、俺が いちばんよく知っている!」
「そりゃ よかった。おまえは ほんとに馬鹿だよなー」
馬鹿だから放っておけない。
我儘で、極端に偏った価値観を持ち、対峙する相手への差別もひどく、視野狭窄。
そんな傍迷惑な男でも、幼馴染みは幼馴染み。
10年以上の長きに渡って友だちであり続けることができたのは、ごくごく僅少とはいえ、氷河にも いいところがないでもないからなのだ。
だから――馬鹿で どうしようもない幼馴染みのために、星矢と紫龍は 現状打破のための行動を起こすことにしたのである。

「要するに、瞬のせいで こうなったことを瞬に知らせずに、あの三人に納得して引き下がってもらえばいいんだろ」
「おまえが ぐれて いじめっこになっていた訳は言わずに、瞬に事情を説明する。その上で、瞬に あの三人を引き下がらせてもらうしかないだろうな」
こんなことに瞬を巻き込みたくない氷河の気持ちは わかるが、もはや道はそれしかない。
長い付き合いの幼馴染みを苦境から救うためと言えば、瞬は むしろ喜んで 積極的に力を貸してくれるだろう。
星矢と紫龍は、氷河を そう説得して、瞬に協力を仰ぐことを氷河に認めさせたのだった。






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