翌日の放課後。 氷河、瞬、星矢、紫龍の四人は、『瞬に“才長けて、見目麗しく、情けあり”を認めた三人に対する 今後の対応方針』について話し合うために、生徒会館フリースペースのテーブルに集まっていた。 そこに、氷河の三人の婚約者たちが登場。 氷河の妻の座を巡る恋のバトル全種目で 瞬に敗北を喫したにもかかわらず、彼女等の表情に 敗者の悔しさや無力感は浮かんでいない。 これまで同様、挑戦的で居丈高な彼女等の その態度を認め、氷河の幼馴染みたちは にわかに嫌な予感に襲われたのである。 “窮鼠猫を噛む”のたとえもある。 あとのないところまで追いつめられた三人が、やけになって とんでもないことをしでかしてくれないとも限らない。 幸い、彼女等は、敗者の悪足掻きを見苦しいものと思うだけのプライドと判断力を有していたようで、星矢たちが案じた最悪の展開にはならなかったが。 彼女等は、婚約者たちに“昼飯以下”の烙印を押されて不機嫌を極めている氷河を華麗に無視し、その視線を瞬の上に投じてきた。 そして、想定外に和やかな口調で、 「昨日は、キッシュとタルトを ありがとう。私たち、あれから三人で話し合ったのだけど、あなたに学業と優しさと料理の腕で負けたことを認めて、氷河は諦めることにしたわ」 と告げてきたのである。 学業と優しさと料理の腕で 負けを認めておきながら、美貌では負けを認めないのかと、氷河、星矢、紫龍は、彼女等の不思議なプライドに畏れ入ったのだが、星矢たちは もちろん、その畏敬の念(?)を言葉や表情に出す愚は犯さなかった。 「あなたの言う通り、私たち、本当は氷河なんか好きなわけでも何でもなくて、氷河が結婚の約束をしたのが自分一人だけじゃなかったことが癪で、無意味な意地を張っていただけだったみたい。そうしているうちに、私たち三人で競うことが楽しくなっちゃったのよね。今度は、誰がいちばん いい男を捕まえるかを、競うことにしたわ」 『俺なんかで悪かったな』と、氷河は胸中で 毒づいたのだが、彼はもちろん その思いを言葉や表情に出す愚は犯さなかった。 そんなことをしてしまったら、丸く治まるものも治まらなくなる。 話の流れは よい方向に向かっているのだ。 『ならぬ堪忍、するが堪忍』という諺くらいは、氷河も知っていた。 それは賢明な判断だったろう。 氷河の三人の婚約者たちは、彼女等の婚約者に向かって、実に晴れやかな表情で、 「そういうわけで、氷河。私たちの婚約は、本日ただ今をもって解消しましょう」 と宣言してくれたのだから。 その宣言に、氷河は内心では 欣喜雀躍、快哉を叫んでいたのだが、賢明な彼は、賢明にも、そんな気持ちを毫も表面に見せなかった。 それどころか氷河は、少々 つらそうな面持ちを作って、三人の婚約者たちに、 「それは非常に残念だ」 と、心にもないことを言うサービスさえ してのけたのである。 そう告げる氷河の全身は、隠そうとしても隠しきれない安堵と歓喜の空気で包まれていたが。 |