剣が、陽光を受けた わけでもないのに、光を放ったのである。
しかも その光は、目を刺すように強い光だった。
剣が、ただ さりげなく上から下に振り下ろされただけなのに、怒りの声を響かせたのである。
しかも その声は、鼓膜を引き裂くように鋭い音だった。
その剣が、古王国の将軍たちに及ぼしたものと同じ力を発揮したのは、疑いようのないことだった。
そして、その光を見、その音を聞いた男は、彼を信じてくれていた人の信頼を裏切って、伝説の剣を盗もうとした男。
当然、彼は 目が見えなくなり、耳が聞こえなくなるはずだった。
だというのに――。

だというのに、彼の目には、瞬の姿と 瞬の瞳が生む涙の雫が見えていた――氷河の目には、瞬の嘆きが見えていた。
「なぜ……」
それだけではない。
なぜ目を閉じ 耳をふさがなかったのかと問うてくる瞬の声も、氷河には聞こえていた。

「おまえを騙した。その罪の報いを受けようと思ったんだ」
だが、見える。
そして、聞こえる。
もう永遠に見ることはできないのだと覚悟していた、瞬の清らかな姿。
もう二度と聞くことはないのだと覚悟していた、瞬の優しい声。
それらは、伝説の剣が その力を発したあとも、氷河のものだった。

「なぜ見える。なぜ聞こえるんだ」
その事実を、氷河は喜ぶことができなかった。
氷河は瞬に罰されたかったのだ。
視力聴力だけでなく、できれば命も奪ってほしかった。
「なぜ……」
呆然として――否、落胆して――氷河は、瞬と同じ言葉を再度 呟いた。

伝説の剣の力を生み使った瞬にも、すぐには その理由はわからなかったらしい。
しばしの沈黙の後、瞬は、トリトスの英雄ではなく、白い花のように可憐なトリトスの王子に戻って、氷河に告げ、問うてきた。
「それは おそらく――氷河に邪心がないからです。邪心や欲心を持たない者に、この剣は危害を加えることができない。切ることも、視力や聴力を奪うこともできない。氷河、もしかして、最初から僕の国を攻めるつもりはなかったの?」

もちろん、そんなことは考えてもいなかった。
この世界の ただ一人の王になること、この世界の すべてを我が物にすること――そんなことを、氷河は望んでいなかった。
氷河が望んでいたこと。
彼が、瞬の信頼を裏切っても手に入れたかったもの。
それは、力でも権威でも覇者の栄光でもなかったのだ。






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