その翌日からだった。
瞬が日に1度は必ず、グラード学園高校の王子様から声をかけられるようになったのは。
とはいえ、だからといって、二人の間で会話といえるほどの やりとりが為されるわけではない。
廊下で すれ違いざま、あるいは校庭や体育館で出会った際に、
「言わずにいるだろうな」
「はい」
という、短い やりとりが繰り返されるだけ。
傍目には それは、ごく自然な偶然の出会いと挨拶に見えるのだろうが、瞬は、これまで自分と氷河の間の距離が10メートル以内になった記憶がなかったので、氷河が意図して 瞬に近付いてきているのは、まず間違いのないところだった。

何かと一緒にいることの多い幼馴染み 兼 クラスメイトの星矢が、学園の王子が毎日 瞬に接してくることに気付かぬはずがない。
そして、星矢には、学園の超有名人と 大人しいことで有名な(?)瞬の日々の接触は、極めて奇異なものに感じられたようだった。
「おまえ、いつのまに氷河と知り合ったんだよ?」
星矢が 知り合いでも何でもない上級生を呼び捨てにするのは、いわゆる一般人が 芸能人や作家を呼び捨てにするのと同じ感覚なのだろう。
それくらい 氷河は、一般の庶民にとっては別世界に存在する人なのだ。
それはともかく。

そんなことを尋ねられても、瞬は星矢に本当のことを言うことはできなかった。
というより、言えるわけがなかった。
「あ……それは、氷河さんが、え……園芸部に花をもらえないかって言ってきたことがあって……」
「あ、そっか。あんな いいガタイして、あいつって花をいじってる男なんだっけ。おんなじ花いじりでも、おまえとは全然違うよな。あいつが花と向き合ってたら、花と喧嘩してるようにしか見えないんじゃないか。花を愛でてるイメージが全然 湧いてこない」
「うん……」

疑いもせず幼馴染みの言葉を信じてくれる星矢の素直さが、瞬は有難かった。
そして、瞬は、星矢の意見を否定することができなかった。
星矢の言う通り、氷河は花を愛し喜ぶタイプの人間には見えない。
彼にとって、花と対峙することは 実際に戦いなのだろうと、瞬は思ったのである。






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