それから数時間、瞬さんは ずっと宝瓶宮にいて、俺たちに いちゃもんをつけたくて仕方がないらしいアクエリアスの氷河を見張って(?)くれていた。
瞬さんのおかげで、おやっさんと俺は 無事にその日の予定分の仕事を終えることができたんだ。
そして、宮の主の氷河じゃなく 瞬さんに礼を言って、俺たちは宝瓶宮を辞した。
当然だよな。
礼っていうのは、親切にしてくれた人に告げる感謝の気持ちを捧げること。
俺たちに親切にしてくれたのは、氷河じゃなく、瞬さんだったんだから。

で、宝瓶宮の外に出るやいなや、俺は、おやっさんに、
「おやっさん。処女宮の修繕の予定はないのか」
と、訊いていた。
「宝瓶宮の修繕も終わってないのに 何を言ってるんだ、おまえは。気持ちはわからんでもないが、宝瓶宮の修繕が終わったらな」
おやっさんは 呆れたような顔をして 俺を たしなめてきたけど、そう言う おやっさんも、さっさと宝瓶宮の仕事を終えて、早く瞬さんの宮の仕事に取りかかりたいと思ってるのは明白だった。
だから、それから、俺とおやっさんは 粉骨砕身、火急速やかに――つまりは しゃかりきになって、宝瓶宮の修繕を片付けていった――片付けてのけたんだ。
10日の予定を7日で。
当初の予定では、宝瓶宮の次は人馬宮の修繕に取りかかることになってたらしいけど、俺の気持ちを酌んでくれた おやっさんは、その予定を変更してくれた。
もちろん、おやっさん自身もそうしたかったんだろうけどな。


そうして 取りかかった処女宮の修繕。
優しく温かで、その上 滅茶苦茶 可愛い瞬さんの宮の修繕なんだから、それこそ 春みたいに平和で ほのぼのした空気の中で、さぞかし 楽しく仕事ができるだろうと思っていた俺の目論みは、見事に外れた。
俺たちが宝瓶宮の仕事を終えて処女宮に通うようになったら、なぜか そこに毎日 アクエリアスの氷河がやってきて、まるで俺たちを監視するみたいに 瞬さんの宮に居座ってくれたんだ。
俺の反抗が よほど気に入らなかったのか、奴は毎日、まるで親の仇でも見るみたいな目で俺を睨んでいた。






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