『うまくやって』と言って、ナターシャが 人を丸1日ほど仮死状態にする お茶を飲んだのは、冬が早いヒュペルボレイオスで初雪が降った日の翌日の午後。
うっすらと庭を白く染めた雪が、二人に、迷い ためらっている余裕のなさを示してきたからだった。
なるべく大ごとにしないため、計画は二人だけで始め、終わらせる。
細かい段取りを慎重に打ち合わせた後、ナターシャは瞬を信じきって、瞬が用意した お茶を飲んだ。

「マーマ、これまでずっと ありがとう」
寝台に横になったナターシャの心臓が その鼓動を止める直前、瞬は小さな声で 彼女に告げた。
幼い頃は 彼女を実の母と信じていた。
そうではないことを知ってからは、慈愛の女神に対するように、彼女を敬愛し 仕えてきた。
この人のために、氷河を本当に幸福な人間にしなければならない。
それが瞬の決意だった。
かりそめの死の中に引き込まれようとしていたナターシャが、瞬の感謝の言葉に不吉なものを感じたのか、一瞬 その瞳に不安の色を浮かべる。
しかし、まもなく彼女は 仮死を招く お茶の力によって、その瞼を閉じることになった。






【next】