『答えてもらえるとは限らないし、答えがわかっても 問題が解決するとは限らない。でも、勇気を出して訊いてみたって、俺は何も失わない』
そう思って、俺は、クラスのいじめっ子のリーダー格の一人に訊いてみたんだ。
「なんで俺をいじめるんだ」って。
そんなこと訊かれるとは思ってなかったらしくて、そいつは変な顔をしたけど、でも俺をいじめる理由は教えてくれた。
「おまえ、俺たちのこと馬鹿にしてるだろ。馬鹿だと思ってるだろ」
って。

俺はびっくりした。
そんなこと思ってないって言ったら、それは嘘になるけど、俺がそんなふうに思うようになったのは、いじめが始まってからのことだ。
少なくとも、俺はずっと そう思ってた。
けど――もしかしたら、そうじゃなかったのかもしれない。
いじめが始まる前にも、俺はそんなことを考えたことがあったのかもしれない。
いじめと 俺の傲慢と、どっちが先にあったのか。
考えても、多分 その答えは誰にも わからないだろう。
でも、そう言われて、気付いたことが一つ。
クラスの奴等は馬鹿じゃない。
俺は、そんなことを一度も口にしたことはなかったのに、いじめっ子たちは ちゃんと俺の傲慢を――悲しい傲慢を――感じ取っていたんだから。

悪いのは、いじめる奴等だし、決して俺が悪かったんだとは思わない。
ただ、俺に いじめを助長させるところがあったのは事実だったんだろう。
俺は、氷河のせいで自分が大馬鹿だってことを自覚させられた直後でもあったから、それから少し謙虚に――というより、虚心になったんだ。
俺が勇気を出して いじめの原因を聞いたせいなのか、それとも 俺が傲慢な気持ちを捨てたせいなのか、俺への いじめは徐々に止んでいった。
俺は、クラスの奴等と同じ 普通の区立の中学に入り、いじめのリーダーだった奴とは、大親友ってわけじゃないけど、友だちになった。
もしかしたら、あの時 俺は また一つ、俺の賭けに勝ったのだったかもしれない。






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