「どーしろって言うんだよ! 瞬の奴、それでも、氷河への“好き”は 恋じゃないって言い張んのかよ!」 星矢は、ほとんど意地になりつつあるようだった。 瞬の姿が消えたラウンジに、星矢が苛立った声を響かせる。 なにしろ、瞬が それでも氷河を“友だち”だと言い張るのなら、同じ友だちである氷河と星矢に対して、瞬は許されざる依怙贔屓をしていることになるのだ。 「どう見ても、どう聞いても、瞬のあれは 友情の範囲を逸脱していると思うんだがな」 いきり立つ星矢に、紫龍が、その怒りは尤も至極という顔を向けてやったのである。 実際、星矢の怒りは 至極当然のものだと思ったから。 こうなると、氷河の恋愛問題は、氷河の恋の成就、地上世界の存続安寧だけの問題ではなくなる。 そこに、瞬の友だちとしての星矢の立場の確保という、重大な問題が追加され関わってくるのだ。 『氷河が瞬の恋人としての地位を確保してくれないと、俺が 瞬にとって氷河以下の友だちだということになってしまう』 それが、星矢の怒りの中核を成す理論のようだった。 「瞬の いちばんの親友で、いちばんの仲間は俺なんだよ! 氷河は、恋人でも 愛人でも 腰巾着でも 下僕でも、好きな肩書き名乗ってればいいけどさ、瞬の いちばんの友だちは俺!」 どうやら星矢のヒエラルキーでは、“恋人”というカテゴリーは、“仲間”“友だち”というカテゴリーより、一段も二段も下位にあるものらしい。 “命をかけた戦いを共に戦ってきた仲間”と“好きで、やってもいいと思う相手”では、崇高度が違う――という考えでいるのだ、星矢は。 だから 星矢は、氷河を瞬の恋人レベルに引きずり落としたくてならないようだった。 瞬の仲間としての いちばんの地位、瞬の友だちとしての いちばんの立場を、我が物にしておくために。 「俺は絶対に氷河と瞬をくっつけるぞ!」 と息巻く星矢を見て、紫龍は つくづく、恋と友情のボーターラインの複雑さに戸惑い、瞠目することになったのである。 氷河が あれほど捨て去りたいと願っている地位と立場が、星矢には 他の何より価値あるものなのだ。 人間の価値観というものは、実に全く人それぞれである。 |