王が死に、王妃が死に、次の王位に就くはずだった世継ぎの王子は生死不明。
『神に逆らって無事でいられるわけがない。兄君の命は諦めなさい』と、みんなが僕に言った。
『エティオピアには もう あなたしかいないのだから』と。
そして、僕に王位に就くように――って。
でも、そんなの無理に決まってるって、僕は思った。
たった6歳の子供が王位に就いて、何ができるっていうの。
せいぜい 誰かの傀儡にされるだけ。
兄さんは王位に就くための教育も受けてたけど、僕は兄さんや両親に甘やかされ可愛がられるだけの 無能な子供でしかなかったのに。

無能無才な王子など、いない方がエティオピアのため。
きっと神々も、両親の命を奪われて神を憎んでいるかもしれない子供が エティオピアの王位に就くことを快く思わないに決まっている。
そう考えて、僕は、一人で王城を出たんだ。
僕は もう生きているつもりはなかった。

一人で生きていける自信なんかない。
その力もない。
兄さんと両親のところに行きたい。
それだけが僕の望みだった。
だから 僕は、エティオピアの都の外れにある古い神殿の前にぽつんと座り込み、自分の命が絶える時を待っていた。
そこで、何も食べず、何もせずにいれば、いずれ僕の願いは叶うはずだった。

自分で自分の命を絶つことができなかったのは、兄さんが『必ず帰ってくる。待っていろ』と言って、オリュンポスに向かったから。
自分で自分の命を絶つと、それは僕が自分の意思で兄さんとの約束を破ることになるから――兄さんの帰りを待っていられなかったことになるから。
ここで静かに待っていれば、死が僕を迎えに来てくれる。
僕は その時を待っていた。
そんな僕の前に、あの人は現れたんだ。






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