そうして ついに辿り着いた、聖戦 最後の戦場エリシオン。
星矢と紫龍、少し遅れて一輝、かなり遅れて氷河と瞬が その場に辿り着いた時、アテナの聖闘士たちが そこで見たものは、咲き乱れる花の中で ただ一人 ぽかんと突っ立っている女神アテナの姿だった。
「いったい、何があったの? ハーデスったら、へろへろ状態でエリシオンにやってきたかと思ったら、自慢の本体に見向きもせず、余の美感に反するとか、人間は皆 不潔だとか、ぶつぶつ言いながら、自分から私の壺の中に入っていったのだけど……。ハーデスは、千年は立ち直れないほどのダメージを受けたとか言っていたわよ?」
「え? あ、ああ、それは……」

アテナに問われた星矢と紫龍は、暫時 返答に窮し、気まずげに顔を見合わせることになったのである。
「氷河のキスのダメージは、かなりのものだったらしいな……」
「冥府の王も立ち直れないほどのキスかぁ。氷河の奴、いったい どんなキスしたんだよ」
「最初のキスは一瞬だったが、二度目のキスは長かったからな」
「キス? キスって、氷河がハーデスに……?」

心底から嫌そうな顔をして、アテナが星矢たちに尋ねてくる。
アテナに負けず劣らず 嫌そうな顔をして、星矢と紫龍は彼等の女神に頷いた。
それで すべてを察したらしく、アテナは、ハーデスが自ら逃げ込んだアテナの壺に、同情の眼差しを投じることになった。
「それでも 自死を選ばないなんて、ハーデスの精神力は鋼の強さを持っているわね」
「それは どういう意味だ」
不機嫌そうな声で そう問うてくる氷河に、アテナが沈黙の答えを返す。
言わぬが花、口は災いの元、沈黙は金。
知恵と戦いの女神は、さすがに賢明だった。

ともあれ、シベリア仕込みの口封じ技で、聖戦は めでたく その幕を下ろしたのである。
氷河の奇天烈大胆な大技によって、地上の平和は守られたのだ――。






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