「氷河……氷河、あのね、僕――」 翌日、瞬は 泣きはらした目に涙をためて、氷河の前にやってきた。 強く優しい瞬が、弱く愚かな仲間のために 何をしようとしているのかを知っていた氷河は、だが、続く言葉を 瞬に言わせなかった。 瞬を遮り、氷河は瞬に、 「夕べ、俺のところに小さな きつねが来て、俺の指に、会いたい人に会える窓を作れる魔法をかけてくれたんだ。おまえに頼まれたと言っていた」 と告げたのである。 もちろん 嘘だった。 瞬が嘘をつかないことで、その強さを示すなら、氷河は嘘をつくことで、瞬の心を守るしかなかったのだ。 「え……?」 瞬が驚いたような目をして、氷河を見上げてくる。 氷河は、瞬のために嘘をつき続けた。 巧みに、その顔に 微笑さえ浮かべて。 「きつねに言われた通り、指で窓を作って、その中を覗いてみた」 「マ……マーマが見えた…… !? 」 瞬が期待に頬を上気させ、潤んだ瞳を輝かせて尋ねてくる。 強く優しく、健気で可愛い瞬。 瞬のためなら、氷河は 嘘をつくことなど平気でできた。 それを悪いことだとも思わなかった。 「マーマじゃなく、おまえが見えた」 「ぼ……僕……?」 悪いことであるはずがないではないか。 それは、瞬に嘘をつかせないために必要な嘘なのだ。 「俺は、おまえが好きなんだ。俺を嫌いだなんて、たとえ 嘘でも言わないでくれ」 「氷河……」 瞬は、自分が これから何をしようとしていたのかを 氷河が知っている訳に 考え及んではいなかっただろう。 氷河が昨日、自分と銀色の男のやりとりを盗み聞いていたのかもしれないと察したわけでもなく――瞬は ただ嬉しかったのだ。 大好きな仲間を 嫌いだと言わずに済んだことが。 「氷河……!」 瞬が氷河の名を呼び、氷河に しがみついてくる。 わんわん泣きながら、 「僕、氷河が大好きだよ! 僕、氷河が大好きなの!」 瞬は その言葉を繰り返し続けた。 午前のトレーニング前の休憩室。 瞬の大声での愛の(?)告白に騒然となる大勢の子供たち。 怒髪天を衝いて、氷河に殴りかかっていく一輝。 その日、城戸邸に集められた子供たちは、『氷河と一輝の 取っ組み合いの喧嘩を 誰も止めなかった(事実は、止められなかった)』という理由で、全員が おやつ抜きの罰を受けることになったのだった。 |