怒り狂った白鳥座の聖闘士をアスガルドのワルハラ宮で迎えたのは、その宮殿の主・ポラリスのヒルダだった。
「アンドレアスが そんなことを……」
頭を抱え込んで 頭痛をこらえる素振りを見せたヒルダが、
「だから、決してアンドレアスを一人にするなと言ったのに……」
と、恨み節めいた呻き声を洩らす。
ヒルダの その言づては、アスガルドの重要人物の身を案じていたのではなく、アンドレアスがまずいことをしないように監視しろという意味だったらしい。
だが、そんなことは、今更 わかっても後の祭り。
今更 知っても後の祭り。
アンドレアスは既に、ヒルダの懸念通り、実に まずいことをしでかしてくれたのだ。

今は とにかく、瞬をアンドレアスの手から奪還することが最優先課題。
ヒルダは くどくどしい謝罪はせず、氷河に必要な情報を速やかに提供してくれた。
「町の北の外れに アンドレアスの屋敷があります。日本で手に入れてきたアイテムの整理と展示の作業をするとかで、アンドレアスは明日まで休暇を取っているわ。アテナから、私の手出しは無用、『ウチの聖闘士が何をしても大目に見て』とだけ、さっき連絡が入ったのだけれど……」
「それだけ聞けば、十分!」
それだけ聞ければ、氷河は十分だった。
ヒルダに同道されたりなどしたら、オタクの誘拐犯を 心置きなく汚い言葉で罵倒することもできない。

「アンドレアスは、オタクなことを除けば、決して悪い人間ではないのです。ただ、自分のオタク趣味を満たすためになら、悪魔に魂も売りかねないところがあって……。でも、根は悪い人間ではないのよ」
それは、犯罪者を評して、『彼は犯罪を犯しさえしなければ、いい人間なのだ』と言っているようなもの。
氷河は、それ以上はヒルダに一瞥もくれず、ワルハラ宮を飛び出した。






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