芳司宮子が熱心で真面目なボランティアであることは事実だった。
掃除や洗濯等の作業。子供たちに絵本を読んでやったり、一緒にゲームをしたり。
不慣れなようだったが、彼女が真面目に それらのことに取り組んでいることは明白。
それは、見ていれば、部外者である瞬にも すぐにわかった。
ただ 彼女は――“普通の家”に生まれ育った彼女は――星の子学園の子供たちが“普通の家”で育った自分と同じになることが 彼等の幸福だと思い込んでいるのだ。
いい家に住み、いい服を着て、飢えることのない“普通の家”を築くことのできる大人になること。
そのためには、熱心に勉強をして教養学歴を身につけることが必要。
そんなふうに 宮子は考えているようだった。

「ルールを守りましょうね。『普通の家の子と違って、星の子学園の子は 社会のルールを守れない』なんて言われたら嫌でしょう?」
「食べ物を こぼしちゃ駄目よ。音を立てて食べるのも駄目。食事のマナー違反は直しておかないと、大人になってから恥ずかしい思いをするわよ」
「そんな いたずらをしちゃ、いけないわ。人に迷惑をかけちゃ駄目だってことは、あなたたちにも わかるでしょう? いい子にしてないと、人に嫌われるわ」
「大人になった時、ちゃんとしてないで困ることになるのは あなたたちの方なのよ」
宮子は、そんなふうに子供たちに接していた。


「正しいんだけど……あの人の言うことは正しいんだけど……」
宮子の言は正しく、それは 子供たちのためにもなる指導である。
正しいから――美穂は“正しい宮子”を正すことができない。
そうして美穂は、“正しい宮子”を“奇妙”と感じる自分の心を どうすることもできずに、持て余しているらしい。
未就学の子供たちは お昼寝の時間。
おやつの準備をする手を止めずに、そう言って 美穂は溜め息をついた。

宮子の言動は間違っていないだけに、児童養護施設での暮らしを経験したことがあるだけの素人でしかない瞬も、宮子に対して、美穂に対して、どう対応すればいいのかが わからない。
瞬が 困り顔で、隣りに立つ氷河の顔を見上げると、彼もまた 奇妙に顔を歪めていた。
もっとも氷河のそれは、美穂や瞬とは全く別の理由によるもののようだったが。
「あのボランティア女、どこかで見たことがあるような気がするんだが……」
眉根を寄せ、低い声で、氷河は呟いた。






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