もう死んでしまってもいいと考えていた氷河が、瞬王子の提案と 一輝国王の条件付き処刑延期を受け入れたのは、彼が 生き続ける気持ちになったからでも、ご褒美に目が眩んだからでもありませんでした。 氷河は、ふと、一つの策を思いついたのです。 もし 国いちばんの大泥棒が 瞬王子を汚すことができなかったなら、瞬王子は生きたまま冥界のエリシオンに連れていかれることになります。 その時 瞬王子についていけば、自分もまた 生きたまま冥界に行くことができる。 そうすれば、自分は 生きたままで マーマにもう一度 会うことができるかもしれません。 氷河のマーマは善良な人間でしたから、死後はもちろんエリシオンの楽園にいるはずです。 罪人として処刑されたり、自死を選んだりしたら、その人間が送られるのはエリシオンの楽園ではなく、悪意者の地獄か自殺者の森。 せっかく冥界に行っても、マーマに会うことは難しいでしょう。 けれど、瞬王子が連れて行かれるのはエリシオンの園にあるハーデスの城。 瞬王子と共に冥界に行けば、生きたまま、確実にマーマに会うことができます。 そのために、瞬王子とハーデスを利用しよう。 そう、氷河は考えたのです。 それは、氷河が生まれて初めて思いついた、誰かのためではなく自分のためだけの“本当に悪いこと”だったかもしれません。 ともかく、やってみる価値はある――と、氷河は思ったのです。 「そうだな。俺なら、確実に瞬王子を汚すことができるだろう」 自信満々の振りをして、氷河は一輝国王に言いました。 氷河を 本物のろくでなしの悪党だと思うから。 藁にもすがる思いで、一輝国王は氷河に賭けてみることにしたようでした。 |