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本来であれば 天上界に属する女神アテナが、地上世界に彼女の国を作ったのは、彼女が人間を愛しているがゆえ。
彼女が治める国には、地上の平和を守るために戦うアテナの聖闘士がいて、彼女の国は アテナの聖闘士を育成するための修行の地でもあった。
アテナの国で アテナの聖闘士になるための修行を積むことによって、人は、尋常の人間には持ち得ない力を得ることができるのである。
女神アテナに仕えるアテナの聖闘士たちは、その力をもって 地上世界の支配や人間の滅亡を企む邪悪の徒と、命をかけて戦うのだ。

聖闘士になるための修行は過酷で、しかも 修行を積んだからといって、その人間が必ず聖闘士になれるわけではない。
それでも 多くの少年たちがアテナの小国を目指すのは、そこが、意欲と才能があれば 努力が報われるかもしれない場所だからだった。
そして、聖闘士になるには 身分も地位も財も必要ではないから。
高貴な血や 金銀を持っていなくても、健康な身体と、何事にも挫けることのない強い意思の力さえあれば、誰でも聖闘士の証である聖衣を授かることができる。
どんな大国の王族にも、大貴族の子弟にも、大富豪にも持ち得ない、特別な力を持った強者になることができるのだ。
アテナが治める国には、他者に支配され 虐げられている人間が、支配される側、虐げられる側の人間でなくなる道があった。
つまり、恵まれない者たちにとっての希望があったのだ。

聖闘士になるには 厳しい修行に耐えなければならない。
そして、耐えるだけではなく、実際に強くならなければならない。
それでも、アテナの国を目指す少年は多かった(少女も、実は少なくなかった)。
それほどに――地位、身分、財、保護者である親に恵まれない子供たちに、世界には冷酷だったから。
アテナの国に行き、聖闘士になるための修行を続けている限り、その子供は衣食住が保証される。
だから、貧しい家の子供や、そもそも 親がなく家そのものがない子供、他に生きる術を見い出せない子供たちの多くが、アテナの国を目指した。
彼等は、アテナの国にある希望を目指した。
恵まれない境遇に生まれた子供たちは、そこにしか希望を見い出せなかったのだ。

アテナが地上世界に築いた 彼女の国の名を“聖域”と言う。






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