『どっちも好きだよ』 『それは、比べられるようなものじゃないでしょう』 『そんなことを訊く人は嫌いです』 十中八九、その3つの答えの内のどれかが返ってくるに違いないと、氷河は踏んでいた。 もし 瞬に、『おまえは、俺と一輝のどっちが好きなんだ?』と尋ねれば。 だから、氷河は あえて 瞬にその質問をぶつけることなく、 「おまえは、俺と一輝のどっちを いい男だと思っている?」 と、瞬に問うたのである。 瞬は、その問い掛けが、『おまえは、俺と一輝のどっちが好きなんだ?』ほど 難しい質問ではないと感じ、どう答えても 氷河は さほど気にしないだろうと判断して、ごく軽い気持ちで、 「そんなの、兄さんに決まってるでしょう」 と答えた。 しかし、氷河にとって、『おまえは、俺と一輝のどっちを いい男だと思っている?』は、あくまで『おまえは、俺と一輝のどっちが好きなんだ?』の代替の質問。 つまり、ほぼ同義。 当然、氷河にとって、『そんなの、兄さんに決まってるでしょう』は非常に不愉快な答えで、これほどまでに重大な問い掛けに、こんなにも軽々しい答えを返してきた瞬に、彼は大いに腹を立てたのである。 瞬が、『おまえは、俺と一輝のどっちが好きなんだ?』の代わりに『おまえは、俺と一輝のどっちを いい男だと思っている?』と尋ねた氷河の微妙な繊細さは わからなくても、氷河が機嫌を悪くしたことは 敏感に感じ取れてしまう人間だったことも、事態を悪化させることに一役買った。 「氷河。それって、僕が氷河に『マーマと僕の どっちが好き?』って訊くようなものだよ。そんな馬鹿なことを、僕に訊かないで。僕に『マーマと僕の どっちが好き?』って訊かれたら、氷河だって困るでしょう」 「……」 もちろん困る。 困るに決まっている。 瞬の非難は正しい。 正しいから――正しくて反論できないから、氷河は ますます機嫌を悪くしてしまったのである。 そして、二人は冷戦に突入した。 |