子供の背丈ほどの高さの緑のツゲの木に、赤いリボン。 クリスマスツリーのようだと、瞬は思ったのである。 クリスマスは1週間も前に終わっていたし、そもそも 冬の庭に立つツゲの木に赤いリボンなど飾られているわけがないというのに。 城戸邸の庭にある高木は すべて落葉樹だが、庭のあちこちにある低木は ほとんどが常緑樹で、冬にも緑の葉を落とさない。 その木の陰に、赤いリボンをつけた小さな女の子がいた。――ような気がした。 城戸邸の母屋から ジムに続く渡り廊下を歩いていた瞬は、その小さな女の子の正体を見極めようとして、その場で足を止めたのである。 城戸邸に 幼い子供は大勢いたが、少女は一人きり。 この家の当主の孫娘、城戸沙織だけである。 だが、瞬が見た(ような気がした)少女は 城戸沙織ではない。 瞬は、つい先刻、華やかな振袖を着た この家のお嬢様が、城戸翁と共に客間に入っていくのを見たばかりだった。 たった今 素早く城戸邸の庭を横切って行った少女は、華やかではあるが パニエで広がった 臙脂色のスカートを翻していた(ように見えた)。 当然、彼女が城戸沙織であるはずがない。 年始の挨拶のために城戸翁を訪ねてきた客が伴ってきた、どこかの家の令嬢なのだろうか。 だとしたら、へたに関わり合うと、あとで 大人たちに叱られることになるかもしれない。 新年早々、辰巳に叱られるのは縁起が よくないし、新年早々 辰巳を怒らせるようなこともしたくない。 だから。 瞬は、それ以上 見知らぬ少女の正体を気にするのをやめて、仲間たちの許に行くために、渡り廊下を駆け出したのだった。 |