6人目の仲間






星矢くん。

君は、いつも仲間たちの中心にいたね。
本音を言うと、最初、僕は それが不思議でならなかったんだ。
僕の庭には、君より年長の子が多くいて、君は最年少組の一人。
そもそも 君は、他人を 自分に従えることに喜びを覚えるタイプの子ではなかった。
君は とりたてて頭がいいわけではなかったし、特に 容姿が優れているわけでも、特に強いわけでもなかったから。
とりたてて頭が悪いわけでも、特に醜いわけでも、特に弱いわけでもなかったけれど。
いや、もちろん、僕の庭の外にいる他の軟弱な子供たちに比べれば桁違いに優れた運動能力は備えていたが、君の周囲には 君より賢く、君より容姿に恵まれ、君より強く、しかも 強烈な個性を備えた子供たちが多くいたからね。

だが、君は いつも仲間たちの中心にいた。
君は 明るく陽性の気質で、人の心を惹きつける 吸引力のようなものを持っていた。
君の周囲の大人たちは皆、そのことを不思議がっていたね。
君は 腕白で無鉄砲。保身を考えずに 思ったことを そのまま口にして、大人たちに疎まれていたから。
この家の子供たちは、不思議がっている大人たちを不思議がっていた。
君の仲間たちにとって、それは不思議でも何でもなかった。
君は この家の子供たちの代弁者。
君の言葉は、この家の すべての子供たちの思いを形にしたものだったんだ。

僕の庭にやってくる子供たちは皆、両親のない孤児だった。
守ってくれる親がいないばかりか、君は、君が命に代えても守りたいと願っていた大切な“守りたい人”と引き離された。
その悔しさ、自分の無力を思う気持ちと、君はいつも戦っていた。
そして、決して 希望を捨てなかった。
君が希望を捨てることは、お姉さんの命を諦めること。
君は希望を捨てることができなかったんだ。
自分が希望を捨てた時、お姉さんの命も消えてしまうような気がして。
切ないね。

お姉さんに会えない君が、お姉さんの優しさを重ねていたのは瞬くんだった。
この家の お嬢様ではなかった。
瞬くんは 君と同い年で、その上 男の子だったのに。
瞬くんは とても泣き虫で、一日に一度は必ず涙を零すような――そう、確かに“守ってあげたい”気持ちを抱かせるような子だった。
だが、君は、瞬くんに いつも対等に接していたように記憶している。
もしかしたら あの頃 既に、君は気付いていたのかな。
僕も 気付いていなかった瞬くんの強さに。

瞬くんは、誰かを守るために生きている子。
そのためになら、誰よりも強くなれる子。
星矢くん。
君には 人間の本質や真実の力を察知する 特別の勘のようなものがあるのかもしれない。
ただし、男子に限る。かな。
いや。あの頃、この家の お嬢様は ただの我儘な お姫様にすぎなかったから、それは仕方のないことだったかもしれないね。






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