瞬くん。

君は、この家でいちばんの美少女。
君は歴とした男の子だが、その意見に異論を挟む者はいないだろう。
男の子なのに、大人しくて、控えめで、涙もろい。
いつも人より一歩 後ろに退いたところにいて、自分から積極的に何かをすることは 滅多にない。
君は とても可愛らしい顔立ちをしていたのに、全く目立たない子供だった。

君が目立つのは 泣いている時だけ。
君の存在が 人に認識されるのは、大抵の場合、君のお兄さんの弟として。
でも、僕の庭にいる子供たちは 皆、知っていた。
君が とても優しい男の子だってことを。

星矢くんとは同い年の親友。
君たち二人は 本当に仲がよかったね。
はらはらしながら 星矢くんに振り回されている君は、本当に可愛らしかったよ。
星矢くんに振り回されているように見える君が、実は無鉄砲な星矢くんを見守ってあげているのだと、僕が気付いたのは、ずっと後になってからだった。
君は星矢くんの強さや明るさだけでなく、星矢くんの弱さも、よくわかっていた。
星矢くんの明るさを守るために どう振舞えばいいのかを、君は知っていた。

気付いている者は少なかったが、君は とても頭がいい子だった。
そんなことは、意識して確かめようとしなくてもわかること、考えるまでもないことだったのに。
頭がよくないと、人は 人に優しくできない。
人に優しくするには、対峙する人の気持ちを推し量り、その立場を考慮し、どうすれば その人の心を温かくできるのか、その方策を考えなければならない。

洞察力と判断力、問題解決能力。
そして、もちろん 行動力が必要なんだ。
人が優しくあるためには。
頼りなげな印象の方が目を引くから、君の聡明に気付いている者は ほとんど いなかったがね。

君はよく、僕の許にきて涙を流していた。
人を傷付けるために強くなりたくなんかない。
痛いのは嫌いだが、人を痛くするのは もっと嫌い。
苦しくて悲しくて――君は泣かずにいられなかった。
君は きっと気付いていたんだね。
自分が強くなれることを。
いや、君は あの時 既に強かったのだ。
その力を振るうことが恐くて、そうできなかっただけで。

僕に すがって泣く君。
僕は、どんなに君の細い肩を抱き、慰めてやりたいと思ったことか。
君が僕の足元に落とした涙の切なさ温かさを、僕は忘れたことがないよ。






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