氷河くん。 君は、僕の庭に集った子供たちの中で際立って優れ、人の目を引く容姿を持っていた。 寒い北の国に命をもたらす夏の陽光のように輝く、金色の髪。 凍った北の海のように寂しい、少し灰色が勝った青い瞳。 情緒は不安定。 言動は極端。 君は、外界や他人に興味がなくて、自分の内に閉じこもっている子供だった。 子供にしては冷めた子だと、僕も最初のうちは 君を誤解していたよ。 今 あの頃のことを振り返ると、なぜ そんな誤解ができたのか、僕は自分が不思議でならない。 だが、そんな誤解をしていたのは僕だけではなかったから、僕の不明を 笑ったりしないでくれ。 その誤解が解けたのは、君が 僕の庭に姿を見せるようになってから1ヶ月ほどの時間が経った、ある日のことだった。 君は夢を見たんだね。 君の大切な お母さんの夢。 『マーマ』と、君は夢の中で叫び、実際に声にした。 その声を聞いた仲間の一人に、そのことで馬鹿にされた――君は、君のマーマへの思いを 仲間に侮辱されたんだ。 心無いことをする子だと、僕も思ったよ。 だが、あの子は、母親に虐待を受け、捨てられた子。 心に深い傷を負った、手負いの狼のような子だったんだ。 許してあげたまえ。 彼のおかげで、君は瞬くんの優しさに触れることができたんだから。 瞬くんは、狼くんが君に牙を剥く訳を知っていた。 そして、君のマーマへの深い思慕の念を知った。 瞬くんは、君に、狼くんを許してあげてと言ったね。 君は、そんなことを言う瞬くんに腹を立て、瞬くんに怒りをぶつけ、そして泣かせてしまった。 君は、どうして瞬くんが狼くんを庇うのか、その訳がわからず、1週間も瞬くんに そっぽを向いたままでいた。 狼くんの事情と、彼が許されることを願う瞬くんの気持ちを 君に教えてくれたのは紫龍くんだった。 親の記憶を全く持っていない紫龍くんや瞬くん。 親に愛されなかった記憶しか持っていない狼くん。 母親に愛された記憶しか持っていない君。 同じように親のない子といっても、いろいろな子がいるのだということに、君は初めて気付いた。 事情を知って、すぐに瞬くんに謝りに行った君は とても偉かったと思うよ。 意地を張って、瞬くんに 1週間も そっぽを向き続けていた君。 『ごめんなさい』を言うのは、とても気まずかったろうに。 瞬くんは、君に許してもらえたのが嬉しくて、泣き出してしまった。 すぐに瞬くんのお兄さんが飛んできたね。 あれからずっと――君がいつも瞬くんを見詰めていたことを、僕は知っているよ。 君は、君のマーマと同じ美しさと強さ、優しさを、瞬くんの上に いつも見ていた。 |