一輝くん。

君は、一見した限りでは粗野粗暴。
そして、いったん こうと決めたら、梃子でも その意思を変えない、我の強い子供だった。
本当は とても礼儀正しくて 素直な子でもあるのに、その意思の強さを我執に見られてしまうことが多かったように思う。

君は、君の弟の瞬くんを守るために強くあることを、自分に課していた。
君は よく 僕を殴ったり蹴ったりしてくれたね。
恨んでなどいないよ。
君が弟の瞬くんを どんなに愛していたかを、僕は 誰よりもよく知っている。
君は、我が身を犠牲にして 弟を守る兄だった。
君の 瞬くんへの思い、瞬くんのための行動が、他のすべてを帳消しにしてしまうよ。

君が瞬くんと遠く引き離されることが決まった日。
守りたい人と引き離された星矢くんの気持ちを、僕はずっと わからないでいたのだけど、あの時、君の様子を見て、僕は それが どんなものなのか、初めて 少しわかったような気がした。
瞬くんの前で泣くわけにはいかない君は、僕の許にやってきて、僕を その拳で打ちながら、瞬くんの名を幾度も呼び、そして 涙を流した。
『瞬……瞬……!』と――あの時の君の 喉の奥から絞り出すような苦しく切ない声。
誰よりも強くて、どんな時にも決然と、いつも運命に挑むような目で 世界を睨みつけていた君の涙、君の声。

あまりに心細そうで、僕は驚いたよ。
そして、僕は知った。
君は瞬くんがいたから、強いお兄さんでいられた。
瞬くんが側に いない君は、ただの幼い子供だったんだ。
瞬くんと引き離されてしまったら、自分がどうなってしまうのか、君はとても不安だったんだろうね。

だが、そうなっても、瞬くんが君を守ってくれた。
どれほど 遠く離れても、瞬くんのために生き延びなければならないという熱い思い。
瞬くんの前で 強い兄であり続けるために、君は涙を拭って 旅立っていったんだ。






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