君たちが僕の庭を去った時、僕がどれほど寂しい思いをしたか、君たちに わかるだろうか。
心の中を冷たい木枯らしが吹き抜けて――僕は 北国生まれだから、本当は暑さが苦手なんだよ。
だが、君たちに会えないことで、僕の心は冷え、その冷たさ寒さが 僕から力を奪っていった。
君たちとの再会は叶うのか。
毎日、朝も昼も夜も、夏も冬も 春の日も 秋の日も、僕は そのことだけを考えていた。

特に瞬くん。
僕は 特に君の心配をした。
君が強く賢い子だということは知っていたけど、君は それ以上に優しくて、人を押しのけても生き延びようという欲を持つことができそうにない子だったから。
氷河くんのマーマと同じだね。
もし自分の命で仲間を救えるのなら、君は一瞬も ためらうことなく、その命を投げ出すだろう。
僕には それがわかっていたから。
僕は、君の身が案じられてならなかったんだ。

逆の意味で、君のお兄さんも心配だった。
意地っ張りで、決して自分を曲げない一輝くん。
懸命に気を張って、頑張れるだけ頑張って、そして、ついに その限界が来た時に、一輝くんの心は 砕け散ってしまうのではないかと、僕は そうなることを懸念していた。
君の持つ しなやかな強さを、君のお兄さんは持っていなかったから。
でも、君たちは皆、頑張った。
君たちは皆、強かった。


大きくなった君たちが 再び僕の前にやってきてくれた時、僕がどれほど嬉しかったか。
年甲斐もなく、身体が大きく震えたよ。
泣けるものなら 泣いてしまいたいほど。
生きていてくれてよかった。
僕が 君たちを待っていた時間が、悲しい時間にならなくてよかった。
君たちが生きる時間は、その後も試練の連続だったけど、君たちはもう 一人ではなかったから、僕は安心して 君たちを見詰めていられた。
君たちは“君たち”だったから、僕は二度と 不安を感じることはなかったんだ。


氷河くんが その気持ちを君に伝えたのも、僕の横だった。
氷河くんに何を言われたのか、意味がわからず、当惑した君が 氷河くんの前から逃げていくのも、僕は見ていたよ。
それから数日が経って、やっぱり僕の すぐ横で、氷河くんは君に 自分の告げた言葉を忘れてくれと言った。
途端に、君は泣き出してしまったね。
そんなふうに言うなら、最初から何も言わずにいてほしかったと。
君が あんなふうに 人を責めるのを、僕は初めて聞いた。

君は、自分の心をじっと見詰めて、自分が氷河くんを とても大切に思っていたことに気付いたばかりだったんだ。
そこに『忘れてくれ』では、あまりにタイミングが悪すぎる。
氷河くんには、そういうところがあるね。
あんなに整った顔立ちをしていて、クールで格好のいい男の子に見えるのに、呆れるほど間が悪くて、頓珍漢なところが。

ああ、でも、僕は 君たちが仲直りをして、キスしたのも見ていたよ。
周囲には誰もいないと、君たちは思っていたようだったが。
僕が『おめでとう。よかったね』と囁いた声は、君たちに聞こえていただろうか。
まさか こんなことになるなんて、初めて君たちに出会った時には 想像もしていなかった。
長い時が流れたのだと、僕は しみじみ思ったよ。






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