99人の12神候補たちと過ごす日々は、確かに現実の世界の時間なのに、夢のように過ぎていく。
選抜施設に、世界中の各地区から集められた100名の12神候補は全員十代。
皆、穏和な性格で、知能も高く聡明。
当たりまえのことだけど、みんな仲良く過ごしていた。
ううん。
“仲良く”というのと、“衝突が起きない”というのは、別のことだよね。
12神候補たちは、目立った衝突を起こすことなく 集団生活を営んでいた。

でも、社会経験の少ない十代の子供(子供だ)が100人もいると――そして、それが全員、これまで“他者に劣る”ことを経験したことのない人間たちだと、どうしても 日々の中で、ぎくしゃくするようなことが起きてきて――苛立つ者たちが出てきた。
不思議なことに、そういう状態になるのは、候補者の中で低評価を受けた者たちの中に多くて、高評価を受けた者たちの中に 傲慢になる者たちは ほとんどいなかった。

出身地区で 常にトップの評価を受けてきた者たち。
才能と適性があって、12神候補として期待されて、この選抜施設にやってきた者たち。
でも、ここでは――どこでも――100人全員がトップでいることはできない。
トップでない自分に戸惑い、焦り――彼等は心の安定性を欠いていったのかもしれない。
100人いた12神候補たちは、櫛の歯が抜けるように 少しずつ減っていった。
100人が80人、80人が50人、50人が25人。

僕の中に欲が生まれず、劣等感も生まれないのは、選抜官たちの評価が高いからではなく、あちらの世界を知っているからなのかもしれない。
あちらの夢の世界に比べたら、こちらの世界は 皆に平等にチャンスが与えられるだけまし。
僕は この世界で生きている誰よりも、人が平等であることと 世界が平和であることの価値を知っている。

25人の中に残った、僕より1歳年長の12神候補が、ある時、僕に ぼやいたんだ。
「でも、僕たちは、機械ではなく人間だ。人間には性格というものがあって、嗜好や価値観も それぞれに違う。社会も、個々人の個性というものを否定していない。誰かを特別視する気持ちが生まれてくるのは自然なことだろう? 特定の誰かと 同じ高みにいたいとか、特定の誰かと特別に親しくなりたいとか」
さすがは12神候補に選ばれる人間性の持ち主。
彼は、そういう言い方をした。
『特定の誰かに負けたくない』とか『特定の誰かを嫌いになる』なんて言い方はしなかった。
言い方を意識して 穏当にしたのじゃなく、彼は、実際に そういう考え方をしていたんだろう。

「僕はみんなと仲良くなりたいよ」
僕は、彼に そう答えた。
“特定の誰か”じゃなく“みんな”。
こちらの世界では。
僕の特別に大切な人は、夢の中にいるから。
僕が微笑んで そう答えた翌日、彼は選抜施設から去っていった。
「僕の“誰か”は君だったよ」
という一言だけを残して。

それで、僕はわかったんだ。
平等で平和な この世界では、“特定の誰か”を持つことが、その人の評価を下げるんだってことが。
世界の平和と人々の平等を守るために 自分の心を殺せる人間が、12神に選ばれるんだってことが。






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