究極の選択






SОSを、最初に発信したのは、ナターシャではなかっただろう。
いかに強大な小宇宙を持つ黄金聖闘士たちと暮らしているといっても、ナターシャ自身は まだ幼い少女。意図して小宇宙を生むことはできないのだ。
となれば、それは、氷河か瞬のいずれかが発したものということになる。
だが、星矢には、それが氷河と瞬のどちらから発せられたSOSだったのかが わからなかったのである。

それは ひどく微弱な思念だった。
思念の主が氷河であっても瞬であっても、その人間は、おそらく ぼんやりと『まずいことになった』と思っただけだったのだ。
そう思ったのが たまたま強大な小宇宙を持つ黄金聖闘士だったために、その思念はそれなりの距離を隔てた外部にまで届いてしまい、それを たまたま星矢がキャッチしてしまっただけ。
氷河の家で また何らかの面白い出来事が起きているに違いないと確信し 期待した星矢は――もとい、氷河の家で また何らかのトラブルが起きているのではないかと案じた星矢は――いつも通りに紫龍を引っ張って、氷河のマンションに直行。
そこで、星矢たちは、氷河でも瞬でもなくナターシャに泣きつかれてしまったのである。
「パパとマーマが喧嘩して、マーマが おうちを出ていっちゃった……!」
と。

氷河の家では、やはり また何か面白いことが――もとい、トラブルが――起きているようだった。
ちなみに、ナターシャが星矢たちに泣きついてきた場所は、氷河と瞬の住むマンションの廊下。氷河の部屋の前。
ナターシャは、瞬の部屋のある階から、氷河の部屋のある階に戻ったところだったらしい。
“面白い出来事”が氷河と瞬の喧嘩だというのなら、事情は二人のいないところで聞いた方がいい。
そう考えた星矢は、ナターシャから事情を聞くために、彼女を マンションの1階のエントランスホール脇のロビーに連れていったのである。
もちろん、『よその家庭に口や首を突っ込むのは、極めて不本意』という気持ちを露骨に表情に出している紫龍も一緒に。






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