生まれて初めて会った兄は 優しかった。
初めての対面の時は、『よく生きていてくれた』と『これまで 探しにいけず、済まなかった』しか言ってくれなかったが、彼が 彼の弟を深く愛してくれていることが、瞬にはわかった。
彼はずっと、彼の弟を思い、愛してくれていたのだ。
瞬は、そんな兄がいることは もちろん、自分の実の両親の存在にさえ考え及ばず、幸福な時を過ごしていたというのに。

これまで 氷河と氷河のマーマと暮らしていた家の何倍も広い王子のための部屋や、これまで 氷河と氷河のマーマと暮らしていた家の何百倍も広い王城には、いつまで経っても慣れることができなかったが、瞬は 兄には すぐに馴染んでしまった。
兄は、瞬の想像とは かなり違う容姿の持ち主だった――氷河とは まるで印象が違っていた。
武骨で果断。
力強い その姿からは 思いがけないような細やかな気配りを さりげなく示してくれる。
何より 氷河と違って、側にいると心が凪ぎ、落ち着く。

国のために我が子を捨てた罪悪感に 静かに耐えていた父。
奪われた我が子を思うあまり、兄を残して冥府に引き寄せられてしまった母。
彼の不幸は すべて瞬のために生じたものだというのに、彼は弟を憎んでいなかった。
そして、瞬も――。
「おまえを捨てた家族を許してくれ」
と詫びる兄に、瞬は、
「僕を許してください」
と答えることしかできなかったのである。
そんな自分が、瞬は歯痒く、そして 悲しかった。

自分だけが ずっと幸せだったこと。
兄に出会えた今も、氷河とマーマを恋しく思っていること。
どうすれば、自分の罪を償うことができるのか。
瞬が その方法を考えるようになっていた頃、氷河と冥府の王が、テッサリアの城に 瞬を迎えにやってきた。






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