「初子は いい奴なんです。瞬先生に憧れてて、初恋だから 勝手がわからなくて、突然ゴーヤチップスだの何だのって 変なこと言い出すけど――できれば 応えてやってください」
どう考えても 墓穴掘りなんだけど――初子が 自分がついた嘘(でもないのか?)の辻褄合わせのために売店にゴーヤチップスを買いに行ったんで、その隙に、俺は 意を決して瞬先生に そう言ったんだ。

幼馴染み同士は、励みになって、何かあった時には助け合えて、側にいてくれるだけで頼りになって――。
進路だけじゃなく、恋の分野でだって、そうできたらいい。
初子が 俺以外の誰かとくっつくなら、瞬先生は 俺にとっても理想的だし、瞬先生なら諦めもつく。
瞬先生は、俺にとって、初子の恋の成就を心から祝福できる ただ一人の恋敵だ。

瞬先生の答えは、
「僕には、一生 共に生きると決めている人がいるんです」
だった。
相変わらず 優しい目で、でも、軽いところの全くない声。
いい人は、子供の恋の告白や お願いにも、真摯に応えてくれる。
瞬先生は、しかも、それだけで済ませなかった。

「ハジメさんは 優しいですね。斉藤さんを好きなんでしょう? そんなに いい人でいすぎないで。優しい幼馴染みでいるのは適当なところで切り上げて、打ち明けてみたらどうでしょう? 幼馴染み同士には、同じ時間を一緒に過ごしてきた、二人の歴史っていう強みがありますから、告白のタイミングを上手く捉えれば、あとは とんとん拍子ですよ」
すごく いい人の瞬先生が、姑息な卑怯者の俺を“いい人”だと言う。
告白のタイミングを上手く捉えれば、あとは とんとん拍子ってのは、瞬先生の経験談なんだろうか。
恋敵が いい人すぎるってのは、本当に不幸だ。
俺は、自分が情けなくて、泣きそうになった。
瞬先生が いい人すぎて、優しすぎて――。
正直、俺は、自分が瞬先生と初子のどっちを好きなのか、自分のことなのに わからなくなっていた。






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