ナターシャは、すごく高い お熱を出して、何日も眠ったままだったんだって。 ナターシャが やっと目を覚まして――マーマは、それが嬉しくて泣いちゃったんだっテ。 ナターシャ、知ってる。 こういうの、“夢落ち”っていうんダヨ。 不思議の国のありすダヨ。 それから、カンタンな夢。 カンタンの夢だったカナ? 紫龍おじちゃんが教えてくれタ。 紫龍おじちゃんは、子供の頃、自分が オトナになって、うんと長生きして、最後に おじいちゃんになって死んじゃう夢をみたことがあるんだって。 夢の中で死んじゃう直前に、夢の中から帰ってこれたんだって。 夢落ちでよかったって、紫龍おじちゃんは 笑いながら言ってた。 ほんと、夢落ちでよかったヨ。 ナターシャは、夢の中から帰ってきた。 パパとマーマのところに帰ってきた。 パパ特製のメロンジュース。 マーマがポタージュを作ってくれて、ナターシャは だんだん元気になって、アタマが はっきりしてキタ。 そしたら、なんでだか、夢の中のこともはっきりしてきて……変ダネ。 ナターシャ、いつもは、朝 起きて、時間が経つと、夢のこと 忘れていくノニ、今日は夢のこと、いっぱい思い出すヨ。 センダイの青葉山の 優しかったおじちゃんと おばちゃんのこと――。 「ナターシャ、おねむしている間 ずうっと、知らないおじちゃんとおばちゃんのおうちにいる夢を見てたんダヨ」 ナターシャが夢で見たおじちゃんとおばちゃんのことをマーマに話したのは、ナターシャは すっかり平気なのに、もう一日だけベッドで寝てなさいって、マーマに言われたカラ。 公園には行けないし、ナターシャのおもちゃ箱もどこかに片付けられてて、だから、ナターシャ、代わりにマーマにお話をしてあげたノ。 そしたら、マーマは、 「ナターシャちゃんが 夢の中で見た おじちゃんとおばちゃんっていうのは、この人たち?」 って言って、マーマのスマホの写真を見せてくれた。 ナターシャが夢の中で会った、あのおじちゃんとおばちゃんの写真。 おばちゃんは、ナターシャが夢の中で買ってもらった お人形を抱っこしてタ。 「ウン。センダイの青葉山のおじちゃんとおばちゃんは、このおじちゃんとおばちゃんたダヨ」 ナターシャがびっくりして頷くと、マーマは何だか つらそうに笑った。 「このおじちゃんは 青葉さんっていって、お医者さんになるための勉強をしていた学校で、僕が とっても お世話になった大先輩なの。今は仙台の総合病院の院長さん。このおばちゃんは、その病院で小児科のお医者さんだったんだよ。でも、子供ができない病気になって、悲しくて お医者さんをやめちゃったんだ。僕がナターシャちゃんのことを話したら、ナターシャちゃんみたいな可愛い女の子と暮らせたらいいなぁって言って――」 「デモ……」 デモ、ナターシャの知らない人ダヨ。 ナターシャは、どうして 知らない おじちゃんとおばちゃんの夢を見たノ? 「ナターシャちゃんがお熱を出して眠っていた時、氷河と看病しながら、このおじちゃんとおばちゃんのお話をしていたの。きっと、ナターシャちゃんは、お熱で ぼうっとしていた時に、その話を 聞いていたんだよ。元気になったら、ナターシャちゃんに お祝いに人形を送ってあげるって、この写真を送ってくれた。ナターシャちゃんが ちょっと目を覚ました時に、僕は この写真をナターシャちゃんに見せてあげたんだよ。ナターシャちゃんは憶えてないかもしれないけど……。だから、このおじちゃんとおばちゃんが ナターシャちゃんの夢の中に出てきたんだね」 ソッカー。 お熱で ぼうっとしてた時に、ナターシャは、センダイの青葉山のおじちゃんとおばちゃんの お話を聞いて、センダイの青葉山のおじちゃんとおばちゃんの写真を見てたんダ。 そうだヨネ。 全然 知らない人の夢を見れるはずないヨネ。 夢落ちの謎が解けたヨ。 夢落ちの謎は解けたケド、夢の中で、パパとマーマがナターシャのこと 忘れてて、ナターシャが悲しかったことは、ナターシャ、パパにもマーマにも言わなかった。 ナターシャが、そんな夢を見たことを知ったら、きっと パパは夢の中のパパに怒って 暴れるカラ。 そのことは、ナターシャだけの秘密ダヨ。 きっと秘密がいいんダヨ。 |