ナターシャ姫とマーマお妃様とお供のパパ王様が 最初に行ったのは、ライトヒル王国の隣りにあるマウス王国でした。 マウス王国の主産業は、ガラス工芸、皮革工芸。 ナターシャ姫たちがマウス王国に入った時、ちょうど 今夜、マウス王国の王子様が お妃選びの舞踏会を催すことがわかって、グッドタイミング。 しかも、その舞踏会は、未婚の娘なら誰でも招待状なしで出席できる、極めてオープンなものでした。 マウス王国の王子様は、美人なら 身分や家柄には こだわらないタイプの王子様なのでしょう。 国内限定オープン型舞踏会は、外交上の利益より 国内の人材の登用と活性化を優先させる国で、時々 採用される方法です。 パパ王様が舞踏会嫌いで、ライトヒル王国では舞踏会が催されることが ほとんどなかったため、舞踏会に出席するのは、ナターシャ姫は これが初めて。 ナターシャ姫は、わくわく うきうきしながらマウス王国の王宮の広間に駆け込んでいきました。 ちなみに、ライトヒル王国のパパ王様が舞踏会を嫌いな訳は、舞踏会では、 「おお、なんと美しい姫君。どうぞ 私と踊ってください」 と言って、マーマお妃様に近付いてくる身の程知らずの無礼者が多いからでした。 マーマお妃様が パパ王様の熱烈な恋の相手だということを知っている者が多いライトヒル王国の舞踏会でさえ、そうなのです。 マーマお妃様へのパパ王様の恋の激しさを知らない よその国では なおさらでしょう。 パパ王様は、マウス王国の舞踏会に出席することには、あまり乗り気ではありませんでした。 パパ王様の不愉快な予感は、もちろん 的のど真ん中に命中しました。 「おお、なんと美しい姫君。どうぞ 私と踊ってください」 と言って、マウス王国の舞踏会で、マーマお妃様にダンスを申し込んできたのは、あろうことか、花嫁絶賛募集中のマウス王国の王子様でした。 マーマお妃様はドレスを着ていたわけではなかったのですが、どんなお洋服を着ていても、世界一 綺麗な人は輝いて見えるものですから、それも致し方のないことです。 マーマお妃様に 自分以外の男が近付くことが許せないパパ王様は、早速 マウス王国の王子様をオーロラでエクスキュートする技の準備運動を開始。 パパ王様が凍気を燃やし始めたことに気付いたマーマお妃様は、 「すみません。僕は娘の付き添いで来ただけなんです!」 と言って、その場から逃げ出しました。 もちろん、パパ王様とナターシャ姫の手を引っ張って。 マーマお妃様にダンスを断られたのが きまりが悪かったのか、あるいは 滅多なことでは挫けない性格なのか、マウス王国の王子様は すぐに別のガラスの靴を履いたお姫様に でれでれして、そのお姫様とダンスを踊り始めました。 残念ながら ナターシャ姫は小さすぎて、マウス王国の王子様は、世界一可愛いお姫様の存在に気付かなかった様子。 マウス王国の王子様に気付いてもらえず、しょんぼりしてしまったナターシャ姫を見て、パパ王様はかんかんです。 「瞬に粉をかけてくるわ、ナターシャは無視するわ、最低な男だな! そもそも、国中の未婚の娘を舞踏会に招待するなんて発想が愚かすぎる。経費の問題、セキュリティの問題。自国民の半数を占める男たちの恨みを買う可能性に思い至らない大馬鹿! 選ばれなかった大多数の未婚女性に憎まれる可能性に思い至らない ド阿呆! そんな大馬鹿ド阿呆王子には、ナターシャと口をきく資格もない!」 ナターシャ姫とマーマお妃様を連れて、パパ王様は ぷんぷんしながら、マウス王国の王宮を あとにしたのです。 時刻は夜の12時。 ナターシャ姫の おねむの時間は とうに過ぎていましたしね。 翌朝、ナターシャ姫たちは、マウス王国の王子が、昨夜の舞踏会で わざとらしくガラスの靴を残して逃げていった姫君を探すために、全国一斉捜索を開始したことを知りました。 靴のサイズは23センチ。 マウス王国の未婚女性の半数は、そのガラスの靴を履くことができるでしょう。 23センチの靴なんて、サイズ25センチの女性だって履こうと思えば履けるサイズですからね。 「そんなことのために、全国一斉捜索だと !? 国民が納める税金を何だと思っているんだ! この国では、今から1ヶ月以内にクーデターか革命が起きるぞ!」 パパ王様は、ナターシャ姫とマーマお妃様を馬車の中に押し込むと、急いで 危険なマウス王国をあとにしたのです。 |