こうなると もう、子供の手には負えない。
大人の力を借りるしかない。
ナターシャは そう思ったのである。
ナターシャが大好きなパパ、ナターシャを大好きでいてくれるパパなら、きっと ナーちゃんを助けてくれる。
誰よりも優しくて 賢いマーマなら、きっとナーちゃんの苦しさを消し去り、つらい心を癒してくれる。

そうなることを期待して、ナターシャは、彼女のパパとマーマを振り返った。
そして、ナターシャは 気付いたのである。
そこにいる彼女のパパとマーマが、いつのまにか よそのおうちのパパとマーマに替わっていたことに。

姿は、ナターシャのパパとマーマだった。
顔の造作も表情も、身に着けている服も、今日 ナターシャと共に 家を出た時のままである。
二人の背後には、沙織と魔鈴がいて、彼女等は 二人の黄金聖闘士の背を じっと見詰めている。
何もおかしなことはない。
何も変わったところはない。
そこにいるパパとマーマは、ナターシャとナーちゃんを 優しく温かな眼差しで見詰めている。

何も変わっていない。
だが、ナターシャには わかったのである。
今 ここにいるパパとマーマは、ナターシャのパパとマーマではない。
二人がナターシャを見詰める眼差しは、他人のそれ。
“私たちの可愛い娘に優しくしてくれた、親切な よその子”を見る目。
そこにいるのは、ナターシャのパパとマーマではなく、ナーちゃんのパパとマーマだった。






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