そうして、氷河と瞬は 二人揃って、生きて人間界に帰ってきたのです。
従来であれば、生きて元の世界に戻ってくるのは、王と生贄のどちらか一方だけでした。
そして、生還者は 超次元での神とのやりとりの記憶を消されているのが常でした。
けれど、今回は 対応が異例だったせいか、それとも うっかり忘れただけなのか、神は 氷河と瞬の記憶を消し去ることをしなかったのです。

無事の帰還を果たした氷河と瞬の説明を聞いて、氏族長たちは瞬の機転を大絶賛。
儀式の顛末が市井に伝わると、国の民は 新国王様は実に賢いと 瞬を褒め讃えました。
瞬は、その賢明を 人に褒められるたび、
「神と対峙した時、氷河は、神を恐れることなく、自分の命に執着せず、僕の代わりに自分が生贄になると言った――言ってくれました。そのことがあったから、僕は この策を思いついたんです。氷河の勇気が 僕にも勇気をくれた。そして、知恵もくれた。すべては 氷河のおかげです」
と、謙遜しました。

確かに それは謙遜でしたが、同時に事実でもあったのです。
氷河が そうしたように、命をかけて 愛と誠意を示されたなら、瞬でなくても 大抵の人間は、示された以上の愛と誠意を返したいと思うものです。
氷河は、かなり 頓珍漢な男でしたが、人を愛するという一事においては、ある種の天才、異才でした。
瞬は、そんな氷河を、とても好きだったのです。






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