アケローン川を無事に渡り、裁きの館という大きな試練を乗り越えたナターシャの前に 次に現れたのは、三つの頭を持つ地獄の番犬ケルベロスだった。
頭だけで、ナターシャの身長と同じくらいの大きさがあり、身体は その100倍くらい。
ナターシャは、自分がケルベロスに見付かって食べられることより、自分の声がケルベロスの耳に届かないことの方を心配したのである。
幸い、彼(?)は、美しい音楽が好きというだけあって、獰猛で狂暴な外見とは裏腹な繊細な耳を持っていた。

眠れ、眠れ、マーマの胸に
眠れ、眠れ、マーマの手に
こころよき歌声に、誘われて 楽し夢

いつもはパパとマーマに歌ってもらう歌を、ナターシャは心を込めて歌った。
心を込めたのは、ケルベロスのためではなく、パパとマーマに その歌を歌ってもらえる日々のためだったかもしれない。
だが、ともかくもそれで、ケルベロスは眠ってくれたのだ。
巨大なケルベロス。
しかし、その寝顔は、巨大な子猫のように可愛らしかった。






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