「そういや、ナターシャ。おまえ、元日の沙織さんちでの おせちパーティで、サトイモ食ってたじゃん。サトイモ、食えるようになったのか?」
唐突な話題変更だったが、ナターシャは、『ナターシャの嫁入り』話の結末のせいで 歪みかけていた顔を、ぱっと明るく輝かせた。
そのことを星矢に気付いてもらえなかったと誤解して、実は彼女は元旦早々 少々落胆していたのだ。
笑顔と得意顔の入り混じった顔で、ナターシャは、星矢に、彼女のサトイモ攻略法を語り始めた。

「サトイモが食べられないと、芋煮会があった時、ナターシャだけしょんぼりすることになるって、星矢ちゃんが言ったから、ナターシャ、頑張ったんダヨ! マーマに、サトイモが食べられるようになりたいって お願いしたら、マーマが サトイモのコロッケを作ってくれたノ。コロッケになったら、サトイモのねっちょりが気にならなくなって、ナターシャ、おいしく食べられたんダヨ」
「おー。頑張ったじゃん。これで、いつ芋煮会があっても ばっちりだな。好き嫌いしないで、何でも食えてりゃ、ナターシャはいつも 瞬みたいに綺麗で健康でいられるぜ」
「ウン! ナターシャは頑張って、マーマみたいに綺麗で健康なナターシャになるヨ!」

元日の城戸邸で気付いてもらえなかったと落胆していた分、自分の努力の結果を ちゃんと星矢に認めてもらえたことが、ナターシャは嬉しくてならないらしい。
寄生虫や その特効薬で苦いものになっていたナターシャの表情は、今は笑顔全開の幸せいっぱい状態だった。

氷河としても、ナターシャの嫁入り話が立ち消えになり、ナターシャが にこにこ上機嫌でいてくれるなら、文句はない。
その日、四人の黄金聖闘士と一人の幼女の茶話会は、サトイモの攻略法から始まって、ピーマンの攻略法、セロリの攻略法、ニンジンの攻略法で盛り上がった。
その後、日本や地中海沿岸ではタコもサトイモも食べるが、いわゆる欧米では食べないという、日本とギリシャの食文化の類似、日本と他地域との文化の違いについての話題。
海洋国家と そうではない国家の食文化の違いについて、ナターシャにもわかる言葉で、四人の黄金聖闘士と一人の幼女は 日本の伝統文化“炬燵”の中で活発な議論を交わしたのである。

第二次世界大戦中、ゴボウを食べる文化のない米国人やオーストラリア人の捕虜に、当時の日本では ご馳走だったゴボウを食べさせたことが、『木の根を食べさせた』と誤解され、戦後 多くの日本人が捕虜虐待の罪で、死刑、終身刑、有期刑の判決を受けた――という話では、特に、地域や国によって文化が異なる事実を知らずにいることは人々の間に争いや禍根の種になるので注意したいという、世界の平和を願うアテナの聖闘士らしい結末で〆ることができた。

「アメリカの人はピーナッツバターとブルーベリージャムの両方をパンに塗って食べるけど、ナターシャは変だって思わないヨ。ナターシャは、生活習慣病にならないために、パパやマーマが作ってくれた新鮮な野菜サンドを食べるけど」
ナターシャもナターシャなりに、文化の違いを認めることを学んだようで、なかなか有意義な時を過ごすことができたと、瞬も、今日の炬燵パーティの内容に おおむね満足していた。
それは、氷河も同じはずだった。
猫を飼う話は出ず、ネズミを飼う話も立ち消えになった。
ナターシャの嫁入り話も、サトイモの攻略法のおかげで 有耶無耶になったのだから。

今日は有意義で よい一日だった。
氷河の その評価が一転したのは、星矢たちの帰宅後、お客様たちのお相手で 終始 興奮気味だったナターシャが、いつもより早めに就寝してから。
日本の伝統文化から ソファに移動した氷河に、瞬が何気なく告げた、
「ナターシャちゃんは、星矢が好きなんだと思うよ」
のせいだったろう。






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