第五章  弑逆の祭儀





 太陽が中天にさしかかろうとしている。
 絵梨衣はごくりと息を飲んだ。
 ドームの屋根は二重になっていたらしい。まるで覆いを外すように銀色の屋根が収納されると、そこには透き通ったガラスのドーム屋根だけが残り、宮殿の内にいながら一面の青空を仰ぎ見ることができるようになった。
 ドームの中心は広い円形の広場になっており、そこには既に立錐の余地もないほど多くの人々が、祭儀の始まる時を待ってひしめいている。その数は、優に2万を超えているように、絵梨衣には思われた。
 ドームの南側に、瞬がジッグラトと言っていた、高さ20メートルほどのピラミッドもどきがあり、その四角錐の頂点の部分に祭壇らしきものが設置されている。この祭壇が影を作らなくなった時、つまり、太陽が祭壇の真上にきた時が、祭儀の始まる時なのだと絵梨衣は女たちに聞いていた。
 広場の周囲は銀色の壁。その壁に守られたジッグラトは、まるで博物館の中に保存されている古代の遺跡のようだった。
 絵梨衣は今日も白い長衣を着せられていたが、その長衣を覆い隠してしまうほどたくさんの装身具が彼女を飾っていた。頭に、首に、肩に、腰に、金細工の装身具をぶら下げられて、絵梨衣はその重さによろめいてしまいそうだった。
 だが、たとえ足元がふらついても、絵梨衣の決意が揺らぐことはなかった。ここで誤解を解かなければ、この先どんな事態が絵梨衣を待ち受けることになるかわからない。絵梨衣は、このたくさんの民衆の前で、自分は蛇ではないと告げるつもりだった。
(なんてことないわよ。小学校ん時の学芸会の劇みたいなもんだと思えばいいんだから。私は"夕鶴"のつうだって演ったことあるんだから)
 蛇でないことさえわかれば、この世界の誰も絵梨衣に用はないはずなのだから、とっとと元の世界に追い払おうと考えてくれるに違いないのだ。
(城戸くんたち、どこかにいるのかな…)
 絵梨衣は、氷河たちの姿を捜して、広場に続く入口の陰から辺りを見まわした。あいにく求める姿を見付けることはできなかったが、絵梨衣は落胆はしなかった。ここにいないのなら、祭儀に興味を持てなくて、宮殿内のどこかの部屋にいるのだろう。
 落ち込んでいても何にもならないし、自分から不安の材料をやっきになって求めることもない。落ち込むだけ落ち込み、浸れるだけ不安に浸りまくって、絵梨衣は完全に開き直っていた。








[next]